柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「門跡と狐」 / 「も」の部~了
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。
本篇を以って、「も」の部は終わっている。]
門跡と狐【もんぜきときつね】 〔甲子夜話巻四十七〕去冬《さるふゆ》京東本願寺自火《じくわ》のこと、第四十二巻に出せり。この頃京より来《こ》し人の物語りに、その火事前のことゝかや。洛外に別荘の地を見立て、門跡自身見分として越しけるが、その地に古き狐穴《きつねあな》多く有りしを、弥〻《いよいよ》別荘に経営せば穴は皆埋《うづ》むべしと決評して、帰りし途中より狐に誑《たぶらか》されて、一行の人数《にんず》残らず恍惚とし、同じ路を幾遍か往来して、夜も已に更け、遂に竹垣へ駕籠の棒を突入《つきい》れて、後へも先へも行かれず。その時門跡も従者も一同に夢の醒むる如く、初めて狐に迷はされしことを悟り、やうやうに本願寺に帰りしとなん。その後《のち》幾程もなく自火ありしかば、この火災も狐の為したることと云ふ取沙汰、京中盛《さかん》なりとぞ。昔より徳有る人の狐に憑れしことは無きことなり。かゝり事ある僧、何の貴《たふと》きことや有るべき。然るにその宗旨を奉ずる輩《やから》、尚も帰依するは如何なる心にや、咲《わら》ふべし。(林《りん》話《はなし》)
[やぶちゃん注:事前に「フライング単発 甲子夜話卷四十七 7 東本願寺狐誑」を公開しておいた。]
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