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2024/01/13

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「堀の大魚」

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 

 堀の大魚【ほりのたいぎよ】 〔月堂見聞集巻七〕六月廿三日申来り候。七八日以前、大坂御城御堀之内、京橋口御門より追手御門《おふてのごもん》迄之間にて、長さ四五間[やぶちゃん注:七・二七~九・〇九メートル。]、胴の太さ三四尺廻り、頭は牝牛の頭の大きさ程、尾は水中に深く入り候て確と相見え申さず候。七八寸程見え申候。鱗の色金のすりはがし等申す様に、水中にてきらきらと光り候由、鱗の間に水草はえ候て在ㇾ之様(これあるやう)に相見え申候。これは鱗に藻のかゝり候ても有ㇾ之べくや、水際より水中へ七八寸計り入《はい》り候て、そろそろと追手之御門の方《かた》へ参り候て、御城の馬場通りかゝり候跡を見請け申候由、その日御金蔵手代薗部太左衛門殿、御用に就き鈴木飛驒守様御広敷へ御出《ごしゆつ》、帰路に右のくせもの平太左衛門殿慥に見及び申され候由、平太左衛門殿より直《ぢき》に聞き申され候方《かた》より申来り候。

[やぶちゃん注:「月堂見聞集」「蟻が池の蛇」で既出既注。国立国会図書館デジタルコレクションの「近世風俗見聞集 第一」(大正元(一九一二)年国書刊行会編刊)のこちらで当該部が視認出来る(右ページ上段後ろから五行目以降)。本巻の冒頭には、記事に就いて『正德四年正月(甲午歲)至同五年三月』とあるので、若干、不審はあるのだが、これは一応、正徳四(一七一四)年六月(徳川家継の治世)のことと思われる。従って、同年六月十四、十五日にこの怪魚は出現したということになる。グレゴリオ暦では七月二十五、二十六日となる。それにしても、この巨大な怪魚の正体は何だろう? 鱗が確認されており、その間に藻類が附着しているとあるからには、大鯰や巨大亀ではない。金兜系の巨大鯉の可能性はある。ただ、ロケーションから、河川を遡って堀に侵入した巨大海水魚と考えることも可能である。惜しむらくは、個体の全体像が確認されていないことで、比定同定は出来ない。なお、本記載の次にも、実は巨大怪魚(記載からは奇怪生物)記載があり、こちらの方が著名であるので、電子化しておく。

   *

去る正德二年三月中旬、江戶深川へ出る魚長さ七尺、惣身鼠いろ、毛の長さ七寸、頭鼠の如し、目赤し、惣身に毛あり髭あり、尾は二岐にして燕の如し、ひれもあり、右の魚は竹中主膳殿地下の獵師が、四ツ手あみにかゝり上る、則主膳殿の見參に備ふ、御城へ獻上、此魚の名不知、折節近衞太閣在江戶、御覽の後萬歲樂と名御付被ㇾ遊候由、此の魚も名不ㇾ知、追而可ㇾ尋、

   *

こちらはもう、魚ではなく、場所と様態から見て、食肉(ネコ)目イヌ亜目鰭脚下目鰭脚下目アシカ科アシカ属ニホンアシカ Zalophus japonicusか(最後の捕獲例から今年で五十年を経るので絶滅したと断定してよいだろう)、アザラシ科 Phocidae のアザラシ類(可能性としては特異的に南下してしまったアザラシ科アゴヒゲアザラシ属アゴヒゲアザラシ Erignathus barbatus(二〇〇八年八月に多摩川に出現した「タマちゃん」はこれ)、或いはゴマフアザラシ属ゴマフアザラシ Phoca largha が考え得る)の可能性が高いと私は睨んではいる。]

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