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2024/01/04

フライング単発 甲子夜話卷四十八 11 琵琶湖の巨鰋

[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして、句読点の変更・追加と、読み・記号・改行・段落を加えた。]

 

48―11 琵琶湖(びはこ)の巨鰋(おほなまづ)

 今玆(こんじ)三月の末、江州の琵琶湖に、巨(おほき)なる黑魚(こくぎよ)浮(うかみ)しを、漁人、もりにて、突(つき)ければ、俄かに、風濤、起(おこ)り、湖色(こしよく)、冥晦(めいかい)せしまゝ、恐れて、舟を馳せて、避け還り、その事を說(くど)く。

 因(より)て、數口(すくち)の漁夫、言ひ合せ、その翌日、風、收まり、波、穩かなるを待ちて、窺(うかがひ)しかば、又、昨(きのふ)の如く、魚、現れしを、多くの舟、取捲(とりまき)て、一度に、數十(すじふ)のもりを突(つき)て、乃(すなはち)、魚(うを)、死(し)したり。

 打寄(うちより)て見るに、三間[やぶちゃん注:五・四五メートル。]餘もある、老鰋(なまづ)なりし、と。

 廼(すなはち)、大網(おほあみ)を以て、やうやう、陸に牽上(ひきあげ)たるを、その邊(あたり)の豪民、買取(かひと)りて、膏(あぶら)をとりしに、夥しき斤兩(きんりやう)を得たり、と。

 鰋の腹中(ふくちゆう)に、髑髏(どくろ)、二つ、小判、金八十餘片ありし、となり。

 いつの時か、溺死の人を食(しよく)せしなるべし。

 從來、秋の頃、「大(おほ)しけ」する時は、黑き物、湖中に見ゆるを、土俗、これを、

「黑龍なり。」

と云ひ傳へたり。

 これに於て、始めて、この鰋なることを、知る。

 これ迄、天氣晴朗のとき、見えたること無きに、今春、時候、常を失(しつ)し、世上、流行病(はやりやまひ)ありて、地氣(ぢき)も亦(また)、變あり、と覺しく、この鰋も、時に非(あら)ずして、浮みたるなるべし【この頃《ごろ》、東都にも、各所の池の鯉・鮒等、頻(しきり)に水面に浮めり。】。

 これ、時に非ずして出(いで)たるより、漁人に獲(と)られける。萬物ともに、數(すう)あることなるべし。【林(はやし)、話。】

■やぶちゃんの呟き

「琵琶湖の巨鰋」琵琶湖と淀川水系のみに棲息する日本固有種で、日本に自然分布するナマズ科魚類四種の中でも、最も大きく、在来淡水魚全体としても、最大級の大きさに成長する条鰭綱ナマズ目ナマズ科ナマズ属ビワコオオナマズ Silurus biwaensis が知られる。但し、当該ウィキによれば、『最大で体長』一メートル二十センチメートル、体重二十キログラム『ほどになる。体格には雌雄差があり』(性的二形)、『一般に雌の方が大きく』、一メートルを『超える大型個体は』、『ほとんどが』、『雌である』とある。本話は伝聞であるから、「三間」はドンブリに尾鰭が付いたものではあろう。

「今玆三月の末」次の条に『去年癸未』とあるので、宝暦十四年三月末と読める。グレゴリオ暦では、この年の旧暦では三月三十日で一七六四年月三十日である。なお、宝暦十四年六月二日(グレゴリオ暦一七六四年六月三十日) に「明和」に改元している。

「數」命数。

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