譚海 卷之九 相州箱根山男の事(フライング公開)
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。特異的に句読点・記号の変更・追加と、読みを加え、段落も成形した。]
○相州箱根に山男と云ふもの有(あり)。
裸體にして、木葉・樹皮を衣とし、深山中に住みて、赤腹魚をとる事を業(なりはひ)とす。
市(いち)の有(ある)日を知りて、里人へ持來りて、米にかふるなり。
人、馴れて、あやしむ事、なし。交易の外、多言する事、なし。用事、終れば、さる。
跡を認(したため)て、うかがひし人、有(あり)けれども、絕壁の道もなき所を、鳥の飛(とぶ)如くにさる故、つひに、住所(すむところ)を知りたる事、なし、とぞ。
小田原の城主よりも、人に害をなすものにあらねば、
「かならず、鐵炮などにて、うつ事なかれ。」
と、制せられたる故に、あへて、おどろかす事、なし、と、いへり。