甲子夜話卷之八 16 沙茶碗といふものゝの圖
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、恣意的正字化変換や推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之七」の後半で既にその処理を始めているのだが、それをルーティンに正式に採用することとする。なお、カタカナの読みは、静山自身が振ったものである。
図は底本の『東洋文庫』版からOCRで読み込み、トリミング補正した。]
8-16
「沙茶碗(すなぢやわん)」と云(いひ)て、越後國、寺泊と云(いふ)處の海底より、出(いづ)。
形、圖の如し。
大(おほい)さ、徑(わたり)四寸ばかり、かう臺(だい)、高さ五步、底に、孔あり、三步にたらず。沙をかためて、其うすきこと、五厘にたらず。
「これを得(うる)には、海底に潛入(もぐりいり)て取る。」
と云ふ。
造化自然の器(うつは)なり。
されど、體質(たいしつ)、もと、沙なれば、輭(やはらか)にして、損じ易し。享和改元の頃、或人、もち來(きたり)て、予に示す。
又、佐渡國(さどのくに)にも、此物、ありて、形、小(ちいさ)し。
「『うにの巢』と云ふ。」
と。
しかれば、海膽(うに)のするところか。
奇品なり。
■やぶちゃんの呟き
これは「砂茶碗」(すなじゃわん)で、静山の言うようなウニの形成するものではなく、腹足綱直腹足亜綱新生腹足上目吸腔目高腹足亜目タマキビガイ下目タマガイ上科タマガイ科 Naticidae に属する巻貝のタマガイ類の卵囊(らんのう)である。本邦の砂浜海岸で、潜水せずとも、容易に見かけるそれは、概ね、タマガイ科ツメタガイ属ツメタガイ亜種ツメタガイ Glossaulax didyma のそれである。当該ウィキの、この画像を参照されたい。タマガイ科の、その形成機序については、サイト「カラパイア」の「浜辺に砂でできた謎の円盤状の物体が!海岸版ミステリーサークルの正体は?」が詳しく、画像も多いので、是非、見られたい。……ああ! もう十二年以上、ビーチ・コーミングもしていないなぁ…………