譚海 卷十二 貧乏神の事(フライング公開)
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。特異的に句読点・記号の変更・追加と、読みを加え、段落も成形した。]
叔父、壯年の時、晝寢せし夢に、
……乞食の如き老人、繿縷(らんる)にて、座敷に入來(いりきた)り、直(ただち)に二階へ上(あが)りたる……
と、見たり。
夫(それ)より後(のち)、萬事、不如意成(なる)事、多くて、過(すご)しけるに、四年をへて、また、晝寐せし夢に、
……前年、二階へ上りたる老父、座敷へ出(いで)て、暇(いとま)を乞(こひ)、立去(たちさ)らんとせし時、申(まふし)けるは、
「……我等は、『貧乏神』なり。四年以前、此家に來りしが、只今、出でさる也。我等、出行(いでゆき)たる跡にて、燒めしに、燒みそを、少し、こしらへ、をしきに、のせ、うらの戶口より、持出(もちいで)て、近き川へ流(ながす)べし。……」
と。又、をしへて云ふ。
「……かまへて、已來(いらい)、燒みそを拵(こしら)ふべからず。貧乏神、殊に、好みたらむ物なり。生味噌、食ふは、殊に惡しく、味噌を燒くべき火の氣(け)さへ、なき程の事なり。……」
と、語りて、夢、さめぬ。
敎(をしへ)の如く、いとなみて、川へ流せし。
それより後(のち)、窮迫の事、なくて、ありき。
[やぶちゃん注:当該ウィキにも、本話が紹介されてある。]
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