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2024/01/18

柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「山伏の祟り」

[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。

 底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。

 読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。

 また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。

 なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。

 

 山伏の崇り【やまぶしのたたり】 〔奥州波奈志〕本柳町といふ所に住むつかまき師夫婦の者有りき。代々有徳にして、ほどにつけたる調度やうの物迄もともしからで実心の者なりし。娘二人もちしが、とりどり相応の生れなりしを、ひそうして有りし姉娘十三ばかりの時、庭におりてあそびて有りしが、春のことにてたこの上りを見送るとて石につまづき、くつぬぎ石にてひざを打ちしが、つよく痛みはれて直らず、終に足なヘになりて、二三年わづらひて死たりき。妹娘もほどなく十三となりしが、同じく庭におりて同じ石につまづき、膝を打ちたりしかば、二親心にかゝりて医師をもとめ、いろく薬用をくはへしかどもいゆることなく、また足なへになりて十六までながらへしかば、その間たからをつくして祈禱まじなひにいたるまで、よしとあるかぎりのことはせしかども、いさゝか印(しるし)なし。終にいき引とりしかば、水なども手向けて屛風引廻して置きしに、うなる声の聞えしかば、すは息吹きかへせしと悦びて、母の行きてみつれば、娘が云ふやう、さて至極快く寝人入りて有りしが、今何方へやら行く所を夢にみたりし、また寝たくなりし故ねんと思ふが、よく寝入りてあらば夜具をはぎてみ給へといひてねぶりしかば、二親うちゑみつゝ、もし快気にもやなると思ひいさみて、少し程をへて夜具をまくりてみたれば、こはいかにその面娘にはあらで鬼のごとし。色赤黒く眼中きらきらと光りて、いたくいかれるおもざしのおそろしさ、云ふばかりなかりしかば、母は思はずとびのきて、夫にそのよしをつげて、両人して行きてみしに前にかはらず。夫婦あきれてゐたる時、かのへん化《げ》おき直りて眼《まなこ》をいからし、声たてゝ云ふやう、汝等二人にいひきかすべきこと有りてあらはれたり、そこさらずして吾《わが》云ふことをよくきけ、我はこれこの家の七代先の祖に金をとられてせつがいせられし山伏の霊なり、我昔官金をもちて上方へゆきし時、先祖の男とふと道づれになりたりしが、茶屋に入りてともにのみ食ひしてのち、あたひをはらはんと懐中より金入をとり出せしを(この山伏のふるまひゆだんのやうなれど、凡そ百五六十年か、または二百年に近きほどのむかし故、人の心もおだやかにて金などもみせしなるべし)この家のあるじの見て、山中にいたりし時、無体《むたい》にてうちやく[やぶちゃん注:ママ。引用原本も同じ。「打擲」の歴史的仮名遣は「ちやうちやく」が正しい。]して終に切りころし、官金をうばひとりて出世をなせしぞや、その時の無念さ骨髄(こつずゐ)に通るといへども、代々運さかんにしてたゝりをなしがたかりしが、やうやう七代にいたりて運かたぶきし故、怨みをはらすなり、かくいふことを偽りと思はゞ外に確かなる証拠有り、たんすの引出しに入《いれ》て有る太刀こしらへの大小はわがさし料《れう》なり、尺は何寸、銘は何々といふことをつまびらかに云ひて(この大小と銘を女の言《こと》にておぼえぬぞくちをしき)いそぎ出《いだ》しみよ、これ違《たが》はぬ証拠ぞといひしとぞ。夫婦は夢のこゝちして、おそろしさに手もふるふふるふ大小をとり出して見しに、変化《へんげ》のいふに露たがはざりしとぞ。この大小は先祖よりのつたはりものとて、代々仕廻《しま》ひてのみ置きしことにて、銘も寸も夫婦しらで有りしを、まして娘子共のしるべきよしなし。実《げ》に昔さることや有りつらんとあやまり入りて有りしに、また変化の曰く、この娘の命たすけたく思はゞ、我のぞみし官位のほどの供廻《ともまわ》りにて、この家よりそう礼を出すべし、(そうしき供廻りいくたりといふことも確かに知らず)さあらば命たすくべし、さなきにおきてはこれ限りぞといはれて、二親はふしまろび、いかやうのことにても仰せにそむくまじ、娘が命たすけ給へと願ひしかば、いそぎそう礼の仕度せよとて夜具引きかづきしか[やぶちゃん注:ママ。後掲する原本活字本では「しが」。]、またもとの娘の面にぞなりたりし。変化はかくいへど、かゝる大病人の有る家よりそう礼を出さんは、外聞かたがたきのどくに思ひて[やぶちゃん注:自分たちの今の分際での外聞は勿論、集まって貰う人々にも如何にも気の毒で申し訳ないと思って。]、寺へそのよしを談じて法名をもらひ、人をやとひて寺の門前よりしたくして、はふりのていをなしたりしに、その人々の寺の門に入たるころへん化あらはれ、母をよびて曰く、この家よりいださば娘が命たすけんと思ひしが、余りに略《りやく》過ぎたる仕かたなり、これにては命ごひは叶ふまじといかりて有りしとぞ。父はそうしきをとゝのへて、これにて娘が命たすかるやと心悦び、かつあんじながら帰りしに、有りしことどもを聞きておぢ恐れ、また家より葬式をとゝのへて出したりしかば、山伏の霊もしづまりやしたりけん、現はれずなりし。むすめも一度《ひとたび》引とりし息のかへりしこと故、おんりやうたち去りてはへたへたとよわりて消え失せしとぞ。このほどの心尽しはむだとなりて、月のうちに三度葬式を出したるとぞ。婿養子なども有りしが、この変化に恐れていヘをいでてをらず。二親も気抜けして家を売りつ。数代の富家《ふか》も長病中《ながやまひちゆう》の物入りにつかひはたし、やれ衣一重ならで身に添ふものなく、ゆくへしれずなりしとなん。山伏は七代までたゝるとは聞きつれど、かくたしかに見聞きしことも稀なれば書き置く。娘のうなりくるしみし声は近辺の人聞くにたへがたかりしとぞ。二親の思ひましていかならん。(このはなしもはやく聞きて有りしが、もし偽りにやと心もとめざりしに、召つかふ女の筋(すぢ)むかひなる家にて、娘の様子、変化の有りし次第もくはしくかたるを聞《きき》てしるしぬ)

[やぶちゃん注:私の「奥州ばなし 柳町山伏」を参照されたい。なお、宵曲は「妖異博物館 大山伏」でも紹介しており、そちらの私の注でも電子化している。]

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