譚海 卷之六 藝州嚴島明神祭禮の事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之六」以降、それをルーティンに正式に採用することとする。]
○安藝の城下、廣島より宮島の間、殊の外、難所にて、四十八坂あり。
それゆゑ、西國の諸大名、參勤交代に陸を御越(おこし)あるも、おほかた、此間は、乘船して通行ある事也。
又、宮島に、春・秋、二ケ度(にかど)の大市(おほいち)有(あり)。十日あまり、市、立(たつ)事にて、近國の人まで、こぞりてあつまる事にて、大坂よりも、「濱芝居」のもの、此市の内は、宮島へ行(ゆき)て、芝居をするほどの事也。
殊の外、繁昌なる事也。
宮島は、一切(いつさい)、田地なき所なれども、宮島の社家、千軒、寺、千軒、町屋、千軒あるが、此市にて、一年中の渡世になるほどの事也。
嚴島明神の託宣に、
「もし、此市にて、宮島、渡世成(なり)がたくば、薪(たきぎ)千駄、萱(かや)千駄、あたふべし。それにても、事ゆかずば、田千反、畑千反、あたふべし。猶、それにて事たらずば、我山に朱砂あり。是を掘(ほり)とりて、渡世すべき。」
よし、の給ふ事と、いひ傳ふ。
「大かた、此市も、明神のはじめさせ給ふ事ゆゑ、にぎはひ、繁昌する事、比類なき事。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:「朱砂」水銀と硫黄とからなる鉱物。深紅色又は褐赤色で、塊状・粒状で産出する。水銀製造の原料、また、赤色顔料の主要材料とされる。漢方では、消炎・鎮静薬などに用いる。「丹砂」「辰砂」とも呼ぶ。但し、厳島でそれが産出するという記事は、ネット上では確認出来なかった。]
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