譚海 卷之八 房總幷(ならびに)松前渡海溺死幽靈の事(フライング公開)
[やぶちゃん注:現在、作業中である柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」のために必要となったので、フライングして電子化する。特異的に句読点・記号の変更・追加と、読みを加え、段落も成形した。]
房總海中に夜泊する時、溺死魂魄の靈、出現し、舟にちかづき、
「ひさく[やぶちゃん注:柄杓。]を借(かり)たき。」
よしを、しきりに乞(こふ)。
その時は、ひさくの底をぬきて、かすなり。
靈、ひさくを、えて、終夜、海水を汲(くみ)て、舟へ入(いるる)る貌(かたち)をなして、舟を沈めんとす。
難船溺死の寃(うらみ)にたへず、他船を見ても、妬(ねたみ)を生じ、如ㇾ此(このごとく)する事にこそと、いへり。
松前渡海の舟も、おほくは、かの地に滯※[やぶちゃん注:「※」=「瑤」-「王」+「氵」。「滯※」は「たいえう」で「長期逗留」の意。]して、晚秋に攬(ともづな)をとけば、歸路洋中《わだなか》にして、おほく颱風《たいふう》に遇ひて破船をなす。松前往來の舟、時々、この魂魄の現ずるに逢ふ事とぞ。
[やぶちゃん注:「溺死魂魄の靈」底本の竹内利美氏が注して、『いわゆる「舟幽霊」「シキ幽霊」の伝承。柄杓の底をぬいて与えるという点も、型どおりのものであった。』とある。「シキ幽霊」は「日文研」の「怪異・妖怪伝承データベース」のこちらに、『シキ幽霊は海に出る妖怪である。海面にニガリがたまって、夕方になると光るのをシキ幽霊という。』とある。]
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