柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「星多く飛ぶ」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
星多く飛ぶ【ほしおおくとぶ】 〔退閑雑記後編巻四〕ことし戊午<寛政十年>十月廿九日夜、星の飛ぶことおびただしく、四方の星雨のやうになん飛び侍ること、あやしきと人々いふ。江戸よりたよりありたるが、おなじ事なりしといひこす。空に風はげしく、星の光ちるにてやあらんといふ。風はげしき時は星の光うごく事あり。かの星《ほし》揺《ゆ》するといふ類ひならまし。星は光を曳《ひき》てとぶを流星《ながれぼし》とかいふ。星おつる事雨の如しといふを、星おちて雨降ると『左伝』にはあなり。星と共に雨ふるもわかりがたければ、この廿九日の夜の星飛びしなどの如き事にやあらん。この頃いとあたゝかなれば、水気《すいき》をむしあげたるか、星のひかりうつり侍るにやあらんとぞ。春の頃大雨などやあらんとおもはるゝも、かの杜撰《ずさん》甚し。
[やぶちゃん注:松平定信の随筆。全十三巻。国立国会図書館デジタルコレクションの『日本隨筆全集』第十四巻(昭和三(一九二八)年国民図書刊)で正規表現の当該部がここから視認出来る。
「戊午」「寛政十年」「十月廿九日」この月は小の月で晦日。グレゴリオ暦一七九八年十二月六日。この日附は、「アンドロメダ座γ流星群」(γAndromedids)の突発発現の初回観測(ドイツ)と月日まで一致している。]
« 柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「亡婦に化けた狐」 | トップページ | 柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「牡丹畠の怪」 »