甲子夜話卷之八 2 雷を畏るゝの甚だしき人の事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、恣意的正字化変換や推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之七」の後半で既にその処理を始めているのだがが、それをルーティンに正式に採用することとする。なお、カタカナの読みは、静山自身が振ったものである。]
8-2
世に雷(かみなり)を畏るゝ者多き中に、最(もつとも)甚しきを聞(きけ)り。
葵章(あふひじるし)の貴族なりとよ。
雷を防ぐ爲に、別に居室を設(まう)く。
其制、廣さ十席餘を鋪(し)く。上に樓を構へ、樓と下室(したべや)との間の梁下に、布幔(ぬのひきまく)を張(はり)て天井とし、其下に、板にて、天井を造り、其下に又、綿布(めんぷ)の幔(まく)を張(はり)て、又、天井とす。
これは雷は陽剛(やうがう)のものなれば、陰柔(いんじう)の物にて堪(たゆ)るが爲に、かく設くるとなり。
かくあらば、もはや、止(とどむ)るべきを、樓屋(らうをく)の瓦下《かはらした》と天井板の間にも、又、綿を多く籠(こめ)て防(ふせぎ)とす。
最(もつとも)可ㇾ笑(わらふべき)は、樓下の室の中央に屛風を圍繞(ゐねう)し、其中に、主人、在(あり)て、屛中は被衾(よぎ)の類(たぐゐ)を以て主人の身を透間なく塡(うめ)て、屛外には近習の諸士ども周圍して並居(なみを)ることなり、とぞ。
これ、妄說にあらず、或人、目擊の語を記す。物を懼るゝも限(かぎり)あるべきことなり。かゝる擧動にて、不虞(ふぐ)[やぶちゃん注:「不慮」に同じ。]の時、矢石の中へ出らるべきにや。
武門の人には、餘りなることとぞ、思はるれ。
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