甲子夜話卷之八 3 狐、禽類もばかす事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、恣意的正字化変換や推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之七」の後半で既にその処理を始めているのだがが、それをルーティンに正式に採用することとする。なお、カタカナの読みは、静山自身が振ったものである。]
8-2
邸隣(やしきどなり)に住(すめ)る人の曰(いはく)、
「某(それがし)幼少のとき、上野山下の根岸に住す。其とき、山より、老狐、出(いで)て、能(よく)馴れ、後(のち)は、食を與(あたふ)れば、屋中に入(いり)て人傍(ひとのかたはら)に在(あり)て、食ふ。
この狐、人のみに非ず、禽類(きんるゐ)をも、ばかす、と覺へ[やぶちゃん注:ママ。]て、一日(あるひ)、烏、來て、樹抄(こづえ)に在り。かの狐、其樹を囘(めぐ)れば、烏、飛去ること、能(あた)はず。
狐、樹下に居(ゐ)て、頭(かしら)を搖(ゆら)せば、烏も、樹上に在(あり)て、亦、
頭を搖す。
一切、狐の爲すが如くせり。」
然(しか)れば、血氣あるものは、飛走(ひさう)の類(たぐゐ)も惑(まどは)すものと見へたり。
■やぶちゃんの呟き
「邸」静山の隠居所は松浦藩下屋敷で本所にあった。