譚海 卷之六 三州萬歲留守居の事 附(つけたり)萬歲江戶年始諸侯人參上の事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之六」以降、それをルーティンに正式に採用することとする。]
○三河國より萬歲に出る留守の間(あひだ)は、其身上(しんしやう)を賄(まかなひ)するもの、さだまりて、有(あり)。
年々、まかなひをして、二月初(はじめ)、江戶より、萬歲、終りて後(のち)、その賄の料(れう)を、はじめ、諸(もろもろ)拂(はらひ)もする事也。
それゆゑ、萬歲に出(いづ)るものの住居(すまひ)する村は、年貢も、每年二月、上納する事也。
萬歲主領[やぶちゃん注:底本には「主」の補正傍注して、『首』とある。]、江戶の御城へ、まゐるものなどは、每年、乘掛馬(のりかけうま)にて出府する也。
御城へ登り、萬歲、相濟(あひすみ)て、黃金二枚・米拾俵、賜はるよし也。
其外、諸大名へ參る萬歲、夫々(それぞれ)に、其屋敷より、賜はるもの、年々、夥敷(おびただしき)事也。
有馬侯などへ參る萬歲は、表門より、出入(でいり)す。表門に向ひて、つゞみをならせば、恆例にて、門番、門をひらき入(いる)る也。
やがて、有馬殿、御逢被ㇾ成(なされ)、萬歲勤(つとむ)る事、相かはらず、年々、然(しか)り。
萬歲の旅宿は、品川に有(あり)て、每日、江戶中にて、もらひ來る鏡餅を、萬歲、うりはらふ。それを、貫目にかけて、かふもの有(あり)。
其邊に住居する貪窮なるものは、萬歲の餅を、かふて、正月中、くらふ事也。
[やぶちゃん注:「三州萬歲」愛知県の旧三河国地域であった安城市・西尾市・豊川市小坂井町・額田郡幸田町に伝わる伝統芸能。特に、伝承地名により、「別所万歳」(安城市)・「森下万歳」(西尾市)とも呼ばれる。両万歳については、参照したウィキの「三河萬歳」が詳しいので、見られたい。
「貫目にかけて、かふ」というのは、一貫目単位での意味ではなく、「地位や肩書などに拘って豪勢に買う」の意であろう。豊洲の本鮪初競りみたようなもんだろう。]