譚海 卷之六 筑紫めかり神事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之六」以降、それをルーティンに正式に採用することとする。]
○筑紫、「めかりの神事」は、每年、除夜也。
その夜は、近鄕のうらうら、みな、火をうちけして、ひそみをる也。
「めかりの事」、終(をはり)ぬれば、社頭にて、はじめて、火を點(とも)す。
「此火の光を、合圖にして、近村の浦々、みな、火を擧(あぐ)事。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:「めかりの神事」「和布刈神事」(めかりのしんじ)。福岡県北九州市門司区和布刈に鎮座する和布刈神社で、旧暦十二月晦日から元旦の未明にかけて執り行われる特殊な神事。関門海峡を隔てた対岸に鎮座する住吉神社でも、同日同時刻に同神事を行う。深夜午前一時から午前三時頃の干潮時に、神職三人が正装し、鎌と松明を持って海中に入り、和布(わかめ)を刈り取って、神前に供える。この和布は「万病に効く」と伝えられ、朝廷にも献上した。神功皇后がいわゆる「三韓征伐」のために、この附近を航海中、安曇磯良神(あずみいそらのかみ)が海中より献上した如意珠(にょいじゅ)を使って、目出度く三韓を征したが、これは皇后が磯良神から「潮干(しおひる)・潮満(しおみつ)の法」を学んだ遺風を伝えるのが、この神事であるとされる。元旦、最初の神供として、土地所産の供物を採取・御供する民俗社会的意義がある(小学館「日本大百科全書」を参考にした)。私は、「霧の旗」を皮切りに、小六から中学生にかけて、殆んどの松本清張の推理小説を読破したが、その「時間の習俗」(写真トリックで、今、考えると、頗るショボい)で、初めて、この行事を知ったのを思い出す。グーグル画像検索「和布刈神事」をリンクさせておく。]