柴田宵曲「随筆辞典 奇談異聞篇」 「仏像の汗」
[やぶちゃん注:本書は昭和三六(一九六一)年一月に東京堂から刊行された。この総題の「随筆辞典」はシリーズ物の一書。本書については、初回の冒頭注を、また、作者については、私の『柴田宵曲 始動 ~ 妖異博物館 「はしがき」・「化物振舞」』の私の冒頭注を参照されたい。
底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらを使用した。新字新仮名である。但し、加工データとして、所持する筑摩書房『ちくま文芸文庫』の「奇談異聞辞典」(底本を解題したもの・二〇〇八年刊)を加工データとして使用させて貰った。ここに御礼申し上げる。
読みが振れる、若い読者が躓くかも知れぬ箇所には《 》で読みを添えた。引用文の場合は歴史的仮名遣を用いた。なお、( )は柴田自身が附したルビである。
また、柴田のストイックな編集法を鑑み、私の注は、どうしても必要と判断したもののみとした。幸い、有意な部分は私が既に電子化注したものがあるので、それをリンクさせてもいる。但し、この原本は新字新仮名であるため、私が電子化していない引用文の原本に当たることが出来たものは、極力、視認出来るように、国立国会図書館デジタルコレクションや他のデータベースの当該部をリンクさせるように努めた。
なお、辞典形式であるので、各項目を各個に電子化する。公開は基本、相互の項目に連関性がないものが多いので、一回一項或いは数項程度とする。]
仏像の汗【ぶつぞうのあせ】 〔塩尻巻七十四〕この月<享保七年十一月>八日風雨の後、尾城南栄国寺本尊汗流るゝ事、をとゝしの冬のごとし。また常念仏所(誓願寺)の大像も汗あり。希有の事とて、僧俗走り行き見る者多かりし。されど寺々の金箔をしぬる柱なども、汗のごとく雫落ちし処数所なりし。冬日に南風烈しく、雨湿時気に戻りし故、かゝる事侍るにこそ。むかしより仏像汗の事、古記等にも見ゆ。されどその同《おなじ》陰晴風雨の事をいはず。大方打続き晴天、時候たがひなき頃は、斯《かく》のごとき事侍らざるにや。
[やぶちゃん注:「鼬の火柱」で既出既注。国立国会図書館デジタルコレクションの「隨筆 塩尻」下巻(室松岩雄校・明治四〇(一九〇七)年帝國書院刊)のここ(右ページ下段後ろから三行目)以降で正字で視認出来る。
「この月」「享保七年十一月」「八日」グレゴリオ暦一七二二年十二月十五日。
「尾城南栄国寺」愛知県名古屋市中区橘にある西山浄土宗清涼山(せいりょうざん)栄国寺(グーグル・マップ・データ)。本尊は、名古屋最古の三大仏の一つとされる「火伏(かぶ)せの弥陀」として信仰の厚い、県重要文化財指定の阿弥陀如来座像である。
「常念仏所(誓願寺)」同名の誓願寺は名古屋にさわにある(グーグル・マップ・データ)ので、判らない。「大像」というのがヒントになるのかも知れないが、そこまでやる気はない。]
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