譚海 卷之九 遠州婦人たやの事
○遠州にては、婦人、月水(げつすい)[やぶちゃん注:生理(メンス)。]になれば、「たや」と稱して別室に居(きよ)し、別火(べつくわ)にて食事をいとなむ。
人と往來する事、なし。
一國、みな、おなじ風俗なり。
わづか鄰國の境(さかひ)へ、たつれば、此風(このふう)なし。
火を吟味する事、格別の事なり。
[やぶちゃん注:「たや」「他屋」。底本の竹内利美氏の後注に、『月経や出産時の「赤不浄」をさけて、別火生活をおくる小屋。三遠地方の山間には近年までその風習が残っていた』とあった。諸辞書に「月小屋」「他火(たび)小屋」「不浄小屋」等とも呼び、月経中の女性が、家族から離れ、食事を別に調理して暮らすための小屋を指す。血を不浄と見る風習によるもので、同じ火で煮炊きしたものを食べると穢れが移るといって別火生活をさせた。東海から西に多く、第二次世界大戦頃まで、この風習があったという。]