譚海 卷之九 備前國西大寺正月十四日福ひろひの事
[やぶちゃん注:底本も、国立国会図書館本も、「目錄」の順序に本文とは異同がある。]
○同所、西大寺(さいだいじ)といふ所にて、每年正月十四日晝、「福拾ひ」といふ事、あり。
寺にて、一七ケ日、「大般若經」執行(しふぎやう)有ㇾ之、其祈禱に用(もちひ)し所の香木(かうぼく)を、絹のきれ一反に卷(まき)、其上を、又、紙奉書に包みて、なぐるなり。
木のながさとて、尺餘あるものなり。
「是を、ひろはん。」
とて、寺の庭中に群集(ぐんしゆ)する人、錐(きり)をたつる地、なし。
ひろひ得たる人は、極(きはめ)て、「ふく報(ほう)」ありて、翌年、仕合(しあはせ)よき事、たがふ事なきゆゑ、かくのごとく群集するなり。
其(その)ひろひたるものを、うりかひするに、いつも小判三十兩までには、かふ人、あり、とぞ。
[やぶちゃん注:「西大寺」岡山県岡山市東区西大寺にある高野山真言宗別格本山金陵山観音院西大寺。所謂、日本三大奇祭の一つの「裸祭り」で知られるのが、本篇のそれ。正式には「西大寺会陽(えよう)」と呼ぶ。現行では毎年二月の第三土曜日に開催されている。ウィキの「西大寺」によれば、神事は三『週間前から始まり、当日投げ込まれる宝木』(しんぎ)『の材料を如法寺無量寿院(岡山市東区広谷)に受け取りに行く「宝木取り」、その翌日の「宝木削り」を経て』、十四『日前からの修二会の祈祷が行われる。会陽当日の夜になると』、『まわし姿の裸の男衆が「ワッショ、ワッショ」の掛け声とともに集まり、牛玉所大権現(ごおうしょだいごんげん)の裸の守護神を参詣したあと、本堂西の四本柱をくぐり、本堂に向かう。そして』、十四『日間の修二会』(しゅにえ)『の祈祷が結願』(けちがん)『した深夜に、本堂の御福窓から』、『裸の男衆の頭上に香を焚きしめられた』二『本』一『対の宝木が』、『それぞれ牛玉』宝印(ごおうほういん)や奉書紙に『包んで投下される』。『そして』、『この争奪戦を制して』二『本いずれかの宝木を手にし、仁王門の外に出た者(取り主)が』、『その年の福男になる(現在は観音院境内の外での宝木争奪は禁止されており、仁王門外到達の時点で確定となる)。取り主は主催者である岡山商工会議所の西大寺支所内に特設された仮安置場へ宝木を持ち込んで申告、鑑定を受けて』、『その宝木が正当なものであれば』、『福男として認められ、その後』、『宝木を』、『その年の祝い主』(脚注で『宝木の賞金のスポンサー。現在は個人ではなく』、『企業や団体が祝い主となるケースが少なくない』とあった)『へ持ち込んで祝福を受け』、『表彰状を授与される』。『持ち込まれた宝木はそれから約』一『年、祝い主により祀られる習わしである』とある。]