譚海 卷之九 勢州神戶白子夏月蚊の事
○勢州、神戶(かんべ)・白子(しろこ)邊(あたり)は、蚊にくるしむ事、他國に異なる事なり。
三月より、蚊帳(かや)をつりて、十月に至り、收(おさむ)る、とぞ。
蚊のなきほどは、一年、たゞ、五ケ月に過(すぎ)ず。
暑(あつさ)も、江戶にかわる事なけれど、全體、溫熱の地成(なる)故なるべし。
「いせ、南方にいたりては、又、然らず。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:「勢州、神戶・白子」グーグル・マップ・データで示すと、「神戶」(かんべ)は三重県鈴鹿市神戸(かんべ)で鈴鹿市市街を含む内陸であり、「白子」(しろこ)は鈴鹿市白子町(しろこちょう)、及び、同白子で、鈴鹿市南東部、現行の狭義の白子は東側が伊勢湾に面して、白子港を持ち、広義の白子地区は水産業の盛んな地区である。以上からも判る通り、両地区は隣接しているわけではないので、注意されたい。そもそも鈴鹿市は昭和一七(一九四二)年に神戸や白子など隣接する多数の町村が合併して命名されたものである。それは「ひなたGPS」の戦前の地図で判然とする。この広域周辺は旧『河藝郡』(かわげぐん)内の一部(そうでなかった地区もある。但し、「神戶村」と「白子村」は同郡内であった)であった。何故、蚊が異様に多いのかは、よく判らないが、戦前の地図を見るに、『神戶町』の辺縁部も、『白子町』の一帯も、田圃であること、さらに『白子町から『神戶町』の西南周縁にかけて、非常に多くの池沼或いは溜池が非常に多くあるのが視認出来るから、これが一因ではあろう。]