譚海 卷之九 同國熊を獵し幷いたちの事
[やぶちゃん注:「同國」は前話を受けるので、「越後國」。]
○又、同國の狩人(かりうど)、熊をとるには、山中に行(ゆき)て、熊のあつまり居(をり)たるを見ては、石をなげ付(つけ)れば、熊、いかりて、追來(おひきた)るとき、高き樹のうらへ、鐵炮を、もちながら、よぢのぼる。
熊、したがつて、樹へのぼる所を、ねらひて、樹の上より、てつぼう[やぶちゃん注:ママ。]を、熊の口中(くちなか)へ、むけて、うつ。
熊、はらを、うちぬかれて、卽時に死すと、いへり。
又、當國には、「いたち」、殊に、おほし。
「山野に行(ゆき)て見れば、「いたち」、穴をほりて住(すみ)たる所に、子を、あまた、出(いだ)して、すまひ[やぶちゃん注:「相撲」。]とらせて、親「いたち」、穴より望(のぞみ)て居(をり)て、負(おひ)たる子をば、行(ゆき)て、あたまを、うちて、歸る。」
と云(いふ)。
又、人家に「いたちの六人づき」と云(いふ)事あり。越後にて、「たてうす」をば、六人して舂(つく)事なり。「いたち」の集(あつま)り騷ぐ音、此「六人づき」の臼の音に似たり。
「唄を、うたふやうに聞ゆる。」
とて、行(ゆき)てみれば、其音、やんで、いづくに有(あり)ともしれず。
「是、極(きはめ)て其家の興廢に拘(かかは)りたる兆(きざし)なり。家、さかえんとしても、有(あり)、又、おとろへんとしても、ある事なり。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:終りの部分は、食肉(ネコ)目イヌ亜目イタチ科イタチ亜科イタチ属ニホンイタチ(イタチ)Mustela itatsi(本州・四国・九州・南西諸島・北海道(偶発的移入):日本固有種:チョウセンイタチMustela sibirica の亜種とされることもあったが、DNA解析により別種と決定されている)やイタチの仲間であるチョウセンイタチ亜種ニホンイイズナ Mustela itatsi namiyei が本邦の民俗社会にあっては狐狸と並ぶ妖怪獣であったことを理解しないと、よく判らないであろう。私の「和漢三才図会巻第三十九 鼠類 鼬(いたち) (イタチ)」を参照されたい。]