甲子夜話卷之八 23 越前の雪中、鹿を捕る事
[やぶちゃん注:これまでのフライング単発で、恣意的正字化変換や推定歴史的仮名遣の読みは勿論、句読点・記号変更・追加、段落成形を行ってきた関係上、以下でも、読者の読み易さを考え、「卷之七」の後半で既にその処理を始めているのだが、それをルーティンに正式に採用することとする。なお、カタカナの読みは、静山自身が振ったものである。標題の「え」はママ。]
8-23 越前の雪中、鹿を捕る事
予が堅士に越前生れのものあり。その言(いひ)しは、
「越前は、山國ゆへ[やぶちゃん注:ママ。]、寒(さむさ)、甚々(はなはだし)。雪も、屢(しばしば)、ふれり。又、鹿、多く產す。因(よつ)て、農夫、雪の降積(ふりつみ)たるときを見て、數(す)百人、寄集(よりあつま)り、鹿を、山々より逐出(おひだ)して谿間(けいかん)の處に、驅(かけ)ゆかしむ。又、豫(あらかじ)め、㵎流(たにながれ)の中(なか)に、竹もて、格子(かうし)を造り、雪に埋(うづ)め置く。鹿、㵎を渡(わたら)んとして、竹上(たけうへ)に、のれば、四足を格子に陷入(おちい)れて、步動(ほどう)すること、能(あた)はず。その時、馳寄(かけより)て、竹槍を以て、突(つき)て、これを獲(とる)。一時(いつとき)、三十餘頭、或(あるい)は、一日、百四、五十に及ぶ。」
となり。
「故に、寒(さむさ)强き翌年は、必ず、豐作なり。これ、雪の瑞(ずゐ)によるのみならず。常年(つねのとし)、鹿、多(おほく)して、穀(こく)を害す。鹿を取ること、多きときは、其(その)患(わずらひ)、少きを以て、故に豐年なり。」
と。
其國の者は目前(もくぜん)のことなれど、山川を隔(へだて)ては、吾邦のことにても、知らざる事、多き也。
« 甲子夜話卷之八 22 京都御所えは申樂入ことを禁ず。又、「平家」をかたるも、撿校、申樂へは、不ㇾ傳事 | トップページ | 杉田久女 朱欒の花のさく頃 (正規表現版・オリジナル注附) »