譚海 卷之七 因州十六濱の事
[やぶちゃん注:底本では「目錄」の順列に問題がある。国立国会図書館本のそれが正しい。底本の竹内利美氏の後注には、『鳥取県東北の日本海岸。山陰海岸国立公園の一部』とあるのだが、この国立公園はここ(グーグル・マップ・データ。以下、無指示は同じ)であるが、この「十六濱」に相当する地区は見出せない。「環境省」公式サイト内の「山陰海岸国立公園の見どころ」を見るに、竹内氏の言っているのは、「五色浜」らしいが、ネット検索で「五色浜 十六浜」で調べても、ここを昔、「十六濱」と別称したとする記事は見当たらない。地名の名数は時に時代によって異なることはあるが、「五」と「十六」では、余りに関連性が感じられない。私は嘗つて底本を読んだ際、これは、竹内氏には悪いが、「場所が、全然、違うのではないか?」と疑問を持ったのであった。それは、私が無類の「海藻」フリークであり、「十六島」という全く違う場所の地名を、よく知っていたからである。以下、私の見解を述べる。
標題の「十六濱」は正しくは「十六島濱」と書き、「うつぷるいはま」(うっぷるいはま)と読むべきものであると考える。さすれば、この「因州」は不審である。そこは「因幡國」ではなく、「出雲國」だからである。津村の本書での記載は、それが遠い地方の場合、その殆んどが、伝聞記載で、自身が行って現認したものではないため、誤りが非常に多いのである。私は、これも、その悪しき一つであると断ずるものである。因みに、この場所は現在の島根県出雲市十六島町(うっぷるいちょう)にある海岸に突出した岬で、大岩石や奇岩が林立し、山陰でも屈指の海岸美を誇る。また、この周辺の独特の食用海藻である「ウルップイノリ」(紅色植物門紅藻亜門ウシケノリ綱ウシケノリ目ウシケノリ科アマノリ属ウップルイノリ Porphyra pseudolinearis )の産地としても知られる。私のサイト版の寺島良安「和漢三才圖會 卷第九十七 水草 藻類 苔類」の「うつぷるいのり 十六島苔」を見られたい。
なお、この前の長い話「譚海 卷之七 俳諧師某備中穢多の所に止宿せし事」は、既にフライング公開している。]
〇「因幡國の北の海濱を十六濱と云(いふ)。
濱、十六、山、十六、有(ある)間(あひだ)、人家なき所なり。
常の陸(りく)街道にあらず、濱道にて、岩をつたひ、浪(なみ)あひを見合(みあはせ)て通ふ道なり。
北風、强き時は、濱邊の砂を吹立(ふきたて)、暫時に砂山を、なす。甚だ、奇觀なり。
此濱邊より、隱岐國、近く、みゆ。朝鮮國も、みゆ。朝鮮は、五十里海上、有(あり)。」
といふ。
[やぶちゃん注:「朝鮮國も、みゆ」噓。鳥取でも、島根でも、朝鮮半島は見えません!!!
「五十里海上」百九十六キロメートル强だが、これも噓だ。十六島町からでさえ、三百キロメートルを有意に超える。五色浜からでは、実に五百キロ超である!]