譚海 卷之七 駿州富士雲氣にて晴陰をうらなふ事
譚海 卷の七 駿州富士雲氣にて晴陰をうらなふ事
[やぶちゃん注:底本では「目錄」の順列に問題がある。国立国会図書館本のそれが正しい。標題は「駿州」としながら、本文では「伊豆國」と言っているのはママ。駿河国の島北端は伊豆半島の北端と接するが、やはり強い違和感がある。「晴陰」は「せいいん」で、「晴れと曇り」の意。]
○伊豆國にて、富士山をみれば、時(とき)有(あり)、て雲の起るにしたがつて、陰晴(いんせい)をうらなふに、よく應ずる事、たがはず。
まづ、一片の雲、細く、橫に、長く引(ひき)たるが、二筋(ふたすぢ)、空中に現(げん)ずるが、段々、空より降(くだり)て、ふじ山の麓に、一すぢ、かゝり、一すぢは嶺に、かゝる。
麓にかゝれるは、嶺にある雲よりは、橫、みじかく、此ふたつの雲、上下(うへした)より、のぼりて、山の中腹にして合(がつ)して、ひとつと成(なり)、其とき、雲のうら、黑ければ、
「風の兆(きざし)。」
とし、白ければ、
「雨なり。」
と、さだむ。
土人の見なれし事にて、
「每度、たがふ事、なし。泰山(たいざん)の雲のいはれも、かゝる事にや。」
と、かたりぬ。
[やぶちゃん注:「泰山の雲」「泰山」は山東省泰安市にあり、高さは最高峰の「玉皇頂」で千五百四十五メートル。封禅の儀式が行われた山として名高く、道教の聖地である五岳の一つだが、「泰山の雲」というのは、雲海のことか。公式の「TBS番組表」の「世界遺産」の「特集 泰山 天空へつづく石の道」の解説に、『泰山は海に近く、峰々が連なっている独特の地形で、湿った空気が峰と峰の間に流れ込むために、低山帯であるにもかかわらず、雲海が発生する』。『雲海の発生にはサイクルがあり、泰山のふもとで気温が』摂氏三十度『以上の炎天下の日が一週間ほど続くと、雲が発達し、やがて』、『一気に大雨が降』り、『その雨の勢いが強いほど、その後』、『雲海が発生しやすくなる』とあった。]