譚海 卷之九 駿州御殿場の御家の庭に淸水出しの事
[やぶちゃん注:この前の四話は、
「卷之九 房總の地狐釣の魚を取る事 / 江戶十萬坪の狐釣の魚を取る事」(カップリング)
は総てフライング公開してある。]
○駿河、富士參詣の驛に、御殿場といふ所、有(あり)。其驛の、酒、うるもの、殊に貞實にて、親にも孝ある事に、人、いひあへりしが、一とせ、居宅の庭より、淸泉(せいせん)、わき出(いで)て、淸らか成(なる)事、たぐひなし。
其水にて、酒をつくりぬるに、酒、いよいよ能(よく)出來(いでき)て、富有の身と成(なり)て、今は、其驛中(えきなか)にて、第一のものに分限の家となれり。
是、美濃の「養老の瀧」のたぐひに同じ。是は、まのあたり見たりし事なれば、こゝに、しるす。
[やぶちゃん注:これは珍しく作者津村の現地現認談である。
「御殿場」足柄峠―竹之下―御殿場―沼津を結ぶ道筋は、東海道五十三次には含まれない。これは古道であって、富士山噴火が収まった時期、小田原から足柄峠を抜けて竹之下から御殿場を抜け、富士山と愛鷹山(あしたかやま)の間を南西に下って現在の富士市に至るルートで「矢倉沢往還」と呼ばれ、脇往還として利用されたものである。以上はサイト「御殿場の魅力発掘隊」の「【御殿場の道:2】古代東海道」に拠った。地図もあるので、参照されたい。
『美濃の「養老の瀧」』私の「甲子夜話卷之八 13 養老酒の事」を参照されたい。]