譚海 卷之八 加州町人木屋滅亡の事
○加州に木屋といへる豪富のものあり。米、買〆(かひしめ)、莫大(ばくだ)せし事に付(つき)、加州侯、親子とも斬罪にせられ、手代五人は遠島に處せられ、家督、斷絕せり。
天明午どしの飢饉、世上、米、払底(ふつてい)なりしかども、木屋方に買置(かひおき)たる越後米、絕(たえ)ず賣物(うりもの)に出(いで)て、翌年夏迄、越後米、世上にありしも、木屋壹人(ひとり)の所藏にてありし、とぞ。
同年、羽州米、四千石、北𢌞(きたまわ)しにて、大阪へ登(のぼら)せたりしに、はじめ、着船せしは、壹石に付(つき)、銀九十二匁、おくれて着船せし米は、壹石に付(つき)百十二匁に成(なり)たりとぞ。
[やぶちゃん注:「天明午どしの飢饉」日本近世の最大の飢饉とされる「天明の大飢饉」(天明二(一七八二)年~天明八(一七八八)丙午年)の最末年。
「羽州米」出羽の国。現在の秋田県と山形県。
「壹石」十斗=百枡=約百八十リットル。
「銀九十二匁」銀六十匁が金一両なので、一両半強。
「百十二匁」凡そ二両弱。]