譚海 卷之九 さわら魚漁師の事
[やぶちゃん注:歴史的仮名遣では「さはら」が正しい。スズキ目サバ亜目サバ科サバ亜科サワラ族サワラ属サワラ Scomberomorus niphonius 。漢字表記は「鰆」「馬鮫魚」。]
○さわらといふ魚は、風雨に乘じて、きそひ、あつまるものなり。
されば、さわらとる漁師は、究竟のあぶれものならでは、成(なり)かたし。
海上、あらし、はげしく成(なり)て、雨、きほひくれば、餘の獵船(りやうぶね)は、みな、家をのぞみて、かへる事なるに、獨(ひとり)、無賴の漁師共(ども)、さそひあひ、此しけを、心にえて、舟を出(いだ)し、風雨にまじりて、さわらをとる事、おびたゞしき事なり。
ともすれば、波に舟をうちかへされて、海に落入(おちいる)事、度々(たびたび)に及べども、元より、無賴のものどもなれば、波をくゞり、水にうかび、舟を、かつぎなほし、水をかへ出(いだ)して、乘(のり)ありく。
「風波を、何とも、思ひたらず、終(つひ)にあやまちせし事、なし。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:博物誌は、私の「大和本草卷之十三 魚之下 馬鮫魚(さはら)(サワラ)」を、物産としてのそれは、私の「日本山海名産図会 第三巻 鰆(さわら)」を見られたい。但し、サワラが荒天を好むというのは、聴いたことがない。ネットで調べてみたが、そのような特異性は発見出来なかった。]