譚 海 卷之十三 浮萍の養ひ方 梅と鰻は相敵なる事 玉子ふはふはの歌の事 鍋より物にあまらざる方の事 そば切製方の事 ひやむぎ製方の事 茄子たくはへやうの事 大根淺漬仕やうの事
[やぶちゃん注:二番目の「相敵」は「あひかたき」と訓じておく。]
○浮萍(うきくさ)は、大方、水氣(すいき)去らず。先(まづ)、鉢に水を、十分、いれ、上に竹管(ちくかん)を、かけ、其上に、ならべて、炎天に、ほすべし。
[やぶちゃん注:「浮萍」広義には、淡水域の水面に生育する単子葉植物綱オモダカ目サトイモ科ウキクサ亜科Lemnoideae或いはウキクサ属 Spirodela に属する種群を指し、狭義には同属ウキクサ Spirodela polyrhiza を指す。ウキクサ類は、タイをはじめとして東南アジアでは昔から一般的な食材として消費されてきており、中国では古くから薬用としている。私も幼少の頃、帰郷した母の実家の鹿児島の岩川で、食べた記憶がある(種は不明)。その時はヒシの実も採取して、私の生涯の内、最初に美味しいと思った食物であった。タイに旅行した際、藁苞に入れた真っ黒に焼いたヒシを見つけたが、若いとても優しい女性ガイドのチップチャン(タイ語で「蝶々」の意)さんが、「日本語ではこの植物はなんというのですか?」と聴かれて教えてあげたところ、その苞一本を自費で買って僕にプレゼントして呉れたのを忘れない。今も元気かなぁ? 私のタイの妖精チップチャン――]
○總て、梅の實を入(いれ)たる酒、其外、何にても、うなぎ、大敵(たいてき)なり。
[やぶちゃん注:所謂、奈良時代に始まり、近代まで民俗社会で信じられていた「食い合わせ」である。その殆んどは、科学的根拠に照らして根拠がないものが殆んどで、この知られた「鰻と梅干」は全く根拠がない。]
○「玉子ふはふは」の歌、
玉七つ
貝杓子(かひびしやく)にて
だし二つ
酒とせうゆうは
一つににるなり
[やぶちゃん注:「せうゆう」はママ。「醬油」。]
○鍋釜にて、物をにるとき、物、多くして、にゑあがるときには、すり木(ぎ)を鍋のうへに釣(つる)べし、にえあがる事、なし。
[やぶちゃん注:「すり木」擂粉木(すりこぎ)であろうが、「釣」るという仕儀から、迷信の類いである。]
○そばを製するに、そば粉を、少し、湯に、くはへて、その湯にて、ねりかたむる時は、そば、つなぎ、よろしく出來(いでき)て、きれぎれに成(なる)事、なし。玉子、何にても、まぜ用ふに、及ばず。
○「ひやむぎ」を調合するには、「うどん」の粉、壹升に、鹽(しほ)を中かさに、六分、まぜるなり。
[やぶちゃん注:「中かさ」は「なかさ」の衍字か。私は「練っている中頃に」の意で採る。]
○茄子、疵なきを、えりて、「もみぬか」の内へ、玉子をたくはふるごとくに收置(をさめおく)時は、來春、取出(とりいだ)しても、取(とり)だてのごとし。
○大根、淺漬(あさづけ)にするには、大根五拾本に、鹽壹升五合・糀(かうじ)一枚を和して、漬置(つけお)けば、能(よく)鹽梅に出來(でき)る也。漬(つけ)てのち、五十日斗(ばか)りをへて、出(いだ)し用ゆべし。
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