譚海 卷之十 京都小川通松本元也宅にて古銅版を掘出す事
[やぶちゃん注:前話と掘り出し物繋がり。標題の「小川通」と本文の「小河通」の違いはママ。現在の京都府京都市上京区上小川町(グーグル・マップ・データ。以下同じ)附近か。]
○京都、小河通金康町上(おがはとおりかねやすちやうのぼ)る所に、松本元也といふもの有(あり)。
其母、夢に、住所(すみどころ)の床(ゆか)の下に、物ある事をみたりしが、かくある事、度々に及(および)しかば、家人に物がたりして、床板を、はなち、あなぐり、尋(たづね)しかば、臺所のしたより、銅牌を三枚、ほり出(いだ)したり。
長さ、六、七寸にして、はゞは、四寸ばかりありて、中央に文字をうち出(だ)し付(つけ)たるあり。
東平州東阿知縣
吳法宗督造
と、二行にありて、又、
官匠
愈洪泰
煎煉
と、一行にならべ、書(かき)てあり。
全く、唐山(たうざん)のものと見ゆ。
いつのよの事にや、たしかにしれず。
ある人のいへるは、
「是は、阿膠(あけう)を造る鑄形(いりがた)成(なる)べし。六、七十年以前までは、如ㇾ此の形に、ねりたる阿膠、舶來せしが、今時(こんじ)は絕(たえ)て、みる事、なし。東阿は膠を產する地なれば、『阿膠』とすべて讀(どく)する事に成たる。」
とぞ。
右文字の上・下・四方に、外廓、有(あり)て、雲龍の「もやう」を、うち出し有(あり)。
甚(はなはだ)、奇怪なるものなり。
又、此ものの床下にある事、かの母の夢に、時々、見えけるも、靈(れい)あるに似て、かたがた、あやしき事なり。
是は、まのあたりみたる事なり。
[やぶちゃん注:珍しく、津村、実見の話。
「阿膠」サイト「生薬辞典」の「阿膠(あきょう)」によれば、『ウマ科(Equidae)のロバ Equus asinus Linné の毛を去った皮、骨、けん又はじん帯を水で加熱抽出し、脂肪を去り、濃縮乾燥したもの』で、『主要成分』は『蛋白質(コラーゲン)、アミノ酸など』。『薬能』は『主として出血、吐血、下血、月経不順、瘀血証など血液に関する一切の病症を治す』とあった。グーグル画像検索「阿膠」をリンクさせておく。生薬では、肌色の粉末であるが、膠(にかわ)として固形処理すると、暗赤色である。
「東阿」山東省聊城市東阿県。]