譚海 卷之十 信州戶隱山明神の事
○信州、戶隱山は、甚(はなはだ)、おそろしき山なり。
參詣のもの、先(まづ)、神主の家に入(いり)て、行水(ぎやうずい)、齋戒して、登山す。
神主の家より、本社までは、半道(はんみち)計(ばかり)有(あり)。
[やぶちゃん注:現在の奥社から逆に辿ると(「半道」は一里の半分)、当時の神主の家というのは、現在の「戸隠神社奥社遥拝所」(グーグル・マップ・データ。以下同じ)附近にあったものと思われる。]
本社は山前(やままへ)にあり、山足(さんそく)[やぶちゃん注:山裾。]に大成(おほいなる)洞穴、あり。九頭龍權現、まします所なり。
[やぶちゃん注:現在の「龍窟」であろう。現在の九頭龍社の北直近上方にある。]
「梨の實(み)を備(そなへ)て歸り來(きた)るに、梨を、喫する音、聞ゆ。」
といふ。
洞の前に、磐石、有(あり)。そこに御供所ありて、奉仕の僧、輪番して守る。
山は天台宗にて、
「江戶東叡山の僧、年々、交代して勤(つとむ)る事。」
と、いへり。
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