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2024/03/17

譚海 卷之十一 スランカステインの事

○おらんだ人、スランカステインと云(いふ)石を持來(もちきた)る。

 是は、「まむし」の口より、吐(はき)たる石也。

 透(すき)とほりてみゆるを、上品とす。

 人の腫物(はれもの)、毒蟲にさゝれたる所などへ、此石を、あつれは[やぶちゃん注:ママ。]、其儘、取(とり)つひて、うみをすひ、毒をも、すひとる也。

 うみ・毒を、吸盡(すいつく)せば、此石、

「ほろり」

と落(おつ)る也。

 其時、人の乳(ち)を、しぼりて、茶碗などへ入置(いれおき)、此石を乳にひたす時は、燒石(やきいし)の水に入(いり)たる如く、聲(こゑ)、有(あり)て、吸(すひ)たる毒を、乳汁の中へ吐出(はきいだ)す也。毒を吸たる儘にて、乳に、ひたさゞれば、石の精、死(しし)て、ふたたび用(もちひ)る事、あたはず。

[やぶちゃん注:「ランカステイン」(オランダ語 slangensteen (スランガステーン:「蛇の石」の意)である。江戸時代、オランダ人が伝えた薬石の名で、蛇の頭から採取するとされた、黒くて、碁石に似た白黒の斑紋を持った石。腫れ物の膿を吸い、毒を消す力を持つとされ、「蛇頂石」「吸毒石」とも呼んだ。所謂、中国の「竜骨」(古代の象や、その他何でもかんでも変わった化石は「竜骨」と称した)である。これは私の非常に得意な分野の一品で、既に私は、

「和漢三才圖會 卷第四十五 龍蛇部 龍類 蛇類」の「龍」の注

でマニアックにしてフリーキーに追跡している。かなり長いが、是非、ご覧あれかし。ページ内検索に「須羅牟加湞天」(スランカステンと読む)を入れてお捜しあれ。捜すのが面倒な方は、私のブログの

「大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 龍骨」

をどうぞ(同内容)。結論だけを言っておくと、この「毒石」の成分は、燐酸石灰と少量の炭酸石灰及び稀少の炭素との化合物で、それは即ち、動物の骨を焼いたもの、或いは、古代の動物の化石に他ならない。実は、既に本書に二箇所出現している。

「譚海 卷之一 同國の船洋中を渡るに水桶をたくはへざる事幷刄物をろくろにて硏事」

に「レキステイン」で出ており、また、

「譚海 卷之二 唐山白牛糞疱瘡の藥に用る事」

にも、「フランカステヰン」で登場している。さらに私の、

『柳田國男「一目小僧その他」 附やぶちゃん注 鹿の耳(11) 山神と琵琶』

「北越奇談 卷之三 玉石 其十八(毒石=竜骨=スランガステイン)」

も参照されたい。

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