譚海 卷之十二 尾州母堂源常院殿御事
[やぶちゃん注:前話を受ける。人物事績等は、前の話で言った通り、関心がなく、父葬儀の翌日のこともあり、以下、本巻最後まで、調べねばならない注は附さない。悪しからず。]
○此(この)安藝守樣父君は、尾州の御母、源常院樣と申(まうす)御孫(おんまご)にて、殊に御愛、深かりしが、御幼稚の時、祖母君へ御出(おいで)ありしに、
「なぞ、度々(たびたび)見えさせ給はぬ。」
と、ありしかば、
「御門より、玄關まで、かちにて參る事、何とも、くるしく候まゝ、度々は、參りかね候。」
と被ㇾ仰られ候へば、
「其事ならば、何か、くるしき。重(かさね)ては、玄關まで「かご」を、よこにつけおり候へ。」
とて、内々にて、其定(さだめ)に被二仰渡一しかば、例に成(なり)て、此あきの守樣も、御一生は、尾州の御玄關まで、かご、付(つけ)らるゝ事にてありし、とぞ。