譚海 卷之十一 飛鳥川茶入の事
[やぶちゃん注:前話に茶入れ「飛鳥川」が出る。]
○「飛鳥川」と云(いふ)茶入は、古瀨戶燒也。
遠州、壯年の時、京都にて、此茶入を見られしに、
「まだ、用(もちひ)るには、あたらしきもの也。」
と、いはれしが、其後、老年に堺に居(を)られし時、又、此茶入を見られて、
「よきほどの用ひ比(ごろ)に成(なり)たり。」
とて、所持、有(あり)。
昨日と過(すぎ)けふと暮して飛鳥川
流(ながれ)て早き月目也鳧(なりけり)
と云(いふ)古歌を箱書付(はこかいづけ)に致され、「あすか川」と稱して、名物無雙の物にいひ傳へたる器なり。
都(すべ)て、茶入の名物といふものは、皆、古瀨戶燒也。古瀨戶の「藤四郞燒」と云(いふ)もの、何れも天下の名器とするもの也。
茶入と云(いふ)物は、本朝にのみ、翫(もてあそ)ぶものにて、唐土(たうど)には、茶入と云(いふ)物は、なき事也。
世間に
「唐物の茶入。」
と稱し、祕藏するも、皆、「藤四郞燒」の古器也。
「夏山藤四郞」と云(いふ)名物の茶入、白き藥の跡、もやうの如く付(つき)て有。(あり)。
夏山の靑葉がくれの遲櫻
あらはれてみゆ二つ三つ四つ
と云(いふ)遠州自筆の歌、添(そへ)て有(あり)。
又、大坂町人、鴻の池所持に、「わくらば」と云(いふ)茶入、有(あり)。「可中」と書(かき)て、「わくらば」とよむ也。是も藤四郞燒の名物也。價、千兩なるもの也。
[やぶちゃん注:茶道のことは、全く関心がないので、一切、注さない。悪しからず。]