譚海 卷之十一 松ばらんの事
○鉢に植(うゑ)て、席上に翫(もてあそ)ぶには、「松葉蘭」と云(いふ)に、しくもの、なし。
是は、深山の巖上(がんじやう)に生(しやう)ずる物にて、至(いたつ)て、葉、濃(こき)に、烟霞(えんか)の氣(き)を帶(おび)たり。日(ひ)に、あつる事を、いむ。四時、ものの蔭に置(おき)て賞すべし。土にて、つちかふ事を、いむ。くされ木(ぎ)のぼろぼろするを、細末(さいまつ)にして、夫(それ)にて植(うう)るなり。席上に置(おき)て、折々、淸水(しみづ)、そゝぐべし。翠色(みどりいろ)、年をへて、衰へず。淸絕(せいぜつ)也。
[やぶちゃん注:「松ばらん」「松葉蘭」シダ植物門マツバラン綱マツバラン目マツバラン科マツバラン属マツバラン Psilotum nudum 。先行する本書の「卷之五 遠州深山中松葉蘭を產する事」を参照されたい。]