譚海 卷之十一 小堀遠州・古田織部の事
○「小堀遠州は、古田織部弟子也。」
といへども、左(さ)には非ず。
遠州、境(さかひ)[やぶちゃん注:底本には「境」の右に訂正傍注で『(堺)』とある。]の點天寺[やぶちゃん注:底本には「點」の右に訂正傍注で『(默)』とある。]といふ住持へ遣(つかは)したる書にあるには、
『織田有樂、堺奉行を勤られし時、織部を正客にて茶湯(ちやのゆ)有(あり)けるに、織部、器用なる人なれども、茶事には不案内なる事、おほし。其日、眞(しん)の臺子(だいす)の飾付(かざりつけ)なるに、炭の時、炭を所望して、臺子へ、顏をさし入(いれ)ければ、爐の火氣に堪(たへ)かね、急に顏を引(ひき)のけんとして、臺子の柱にかしらを打あて、飾り付たる茶入、まろび落(おち)て、はきたる茶抔(など)、席中へ、こぼれ、散々の體(てい)也。全體、臺子には、炭を所望なきもの成(なる)を、しらずして、所望ありし故、如ㇾ此あやまちも有(あり)ければ、有樂、おかしく思はれ、枕を持出(もちいで)て、織部に申されけるは、
「貴殿、茶は、平日の事にて、珍敷(めづらしく)有(ある)まじければ、小姓共に、たてさせて參らせん。是にて、一寢入(ひとねいり)、せられよ。」
とて、枕を、あたへられける。』。
其日の姶終、遠州、勝手取持(かつてとりもち)にて、見聞(みきき)たるよしを書(かき)たるを見れば、遠州は、織部弟子にあらざる事、明らかにしられたり。
[やぶちゃん注:「堺」「の」「黙」「天寺」不詳。
「眞の臺子」台子は水指などの茶道具を置くための棚物の一種で、茶道の点前(てまえ)に使用する茶道具。一般的には格式の高い茶礼(されい:禅宗における飲茶の礼法)で用いられ、特に「真台子」(しんだいす)は献茶式などで使用される。真台子を使う点前は、茶道の点前の精神的・理論的根幹を成すものとされ、奥儀・奥伝・奥秘などと呼ばれて最後に伝授される習わしになっている。「真台子」は真塗り四本柱の最も格が高いとされており、大きさは幅九十一センチメートル・奥行き四十二センチメートル、高さ六十七センチメートル程度と、非常に大きい。通常は皆具(水指・杓立・建水・蓋置の四つを同一素材・同一意匠で揃えたもの)を合わせる(以上は書画・骨董商「株式会社 栄匠堂」サイト内の「台子(だいす)の基礎知識」に拠った。写真有り)。]

