譚海 卷之十 水戶家士小池源太左衞門日野大納言殿病氣を祈禱して本復事
[やぶちゃん注:この主人公「水戶の家士小池源太左衞門」は、この前話「江戶角田川眞崎明神にて仙臺の狐物語の事」(フライング公開済み)に出る。彼については、「耳囊 卷之八 不計詠る歌に奇怪を云ふ事」で注してあるので、そちらを見られたい。また、「江戶角田川眞崎明神にて仙臺の狐物語の事」と同内容のものが、「耳囊 卷之四 靈獸も其才不足の事」に載り、その私の注で、早くに一回、電子化注してある。されば、ここでは注は附さない。なお、標題「本復事」はママで、「の」は、ない。]
○水戶の家士、小池源太左衞門といふ人、和歌をこのみ、日野大納言資枝卿の門人にて、何とぞ、一度、上京して直(ぢき)に指南をも、えたく、年來、心懸ける中(うち)に、資枝卿、大病にましまし、再生の期(き)成(なり)がたきほどの事におよびけるを、小池、傳聞(つたへきき)て、甚(はなはだ)、なげき、年來の願望も、むなしくならん事を、ふかく、うらみて、水戶城下上町、八幡宮へ日參をして、日夜、御病氣平癒の事を祈(いのり)けるに、そのよし、資枝卿の夢にも見られ候ほどの事にて、日を逐(おひ)て、快氣に成(なら)せられ、平復ましましけり。其次第、書狀にても申上けるに、
「此方(こなた)にも、いちじるしき事、あり。」
とて、やがて、和歌をよむで、源太左衞門に屬し、彼(かの)八幡宮に奉納ありける、とぞ。其(その)うた。
冬枯(ふゆがれ)と
みしも惠(めぐみ)の
露(つゆ)をえて
綠にかへる
春の若草
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