譚海 卷之十 肥前國阿蘇山の事
○肥前國阿蘇山は、はなはだ、おそろしき山なり。
古宮[やぶちゃん注:底本では「古」に編者補正傍注があり、『(若)』とある。]]・新宮・某(なにがし)とて、三所あり。
皆、宮はなくて、池中に、岩のそば立(だて)たる所を神座とす。
此池中、時々、火、もえいでて、甚(はなはだ)、おそろし。此火のもゆるとき、行(ゆき)あはする人、大かた、怪我(けがい)、命をおとすほどの事なり。
それが爲に、火のもゆ[やぶちゃん注:ママ。]ときは、山上、煙雲の如く、たなびき、くだるを見れば、其烟のやむまで、山中に岩居(いはゐ)して待居(まちゐ)て、けぶり止(やむ)を見て、登山する事なり。
「新宮、ことに、火のもゆる事、甚しく、地震の如く、鳴動して、もゆる。」
といふ。
「嗚動せざる間(あひだ)を、うかゞひて、往來するなり。」
とぞ。
[やぶちゃん注:「阿蘇山」「古宮」(=若宮)「・新宮・某」若宮神社はここにあるが、それであるかどうか不詳。新宮は「宮はなく」とあるから、阿蘇神社のこととも思われない。「某」に至っては、当然、判らない。「登山」「鳴動」とあるので、これらは、阿蘇山の噴火口にごく近い、阿蘇神社の奥宮(奥の院)とされる現在の古くから阿蘇火山を鎮める神として祀られている阿蘇山上(あそさんじょう)神社(総てグーグル・マップ・データ)に近い三箇所の池であろうか?]
« 譚海 卷之十 豆州江川太郞左衞門殿棟札の事 附駿州かり宿村舊宅の事 | トップページ | 譚海 卷之十 鴨長明子孫の事 »