譚海 卷之十二 同邸雛祭の事
[やぶちゃん注:標題の「同邸」は前話に出た広島藩で、本文の「安藝守樣」は第二代藩主浅野光晟以降(但し、第三代は家督を継いだ翌年年初に疱瘡で死去しており、「安芸守」の授位していない)を指す。]
○安藝守樣に「御家附の雛」とて、「おもての書院」に飾らせらるゝ雛、あり。是も御守殿[やぶちゃん注:先の話で注した「振姫」を指す。]の比(ころ)、御持參の雛にて、世にたぐひなき物なれば、其以來、御家に祕(ひ)し、つたひて、飾らるゝ事にて、御姬樣方ありても、其方の雛にはあらず、規式(きしき)に備(そなへ)られたる「ひひな」也。
殿の御劍(ぎよけん)は、つねの雛のごとき物なれ共(ども)、小鍛冶宗近、打(うち)たるもの、とぞ。
其外、鑓・長刀(なぎなた)・武具をはじめ、皆、名作の物、多し。
御夫婦をはじめ、家老・用人、次々の家司・奴・足輕の類(たぐひ)まで、皆、揃(そろへ)てあり。奧の女中も、又、其數(そのかず)に同じ事に、備(そなへ)あり。
若君を、乳母のいだきたる、あり。此人形、若君のやうす、生(いき)たる人の如く、粉(おしろひ)斗(ばか)りを、もつて、拵へたるものとは見えず。珍しきもの也。
尤(もつとも)疊を敷(しき)ならべ、御段(ごだん)を、しつらひて、飾る。
「誰(たれ)は、何を仕𢌞(しまはし)たる。」
と云(いふ)事、其年の、三月、「ひひな」を仕𢌞たる人の名を記して、仕𢌞置程(しまはしおくほど)に、大切にし給ふ也、とぞ。
[やぶちゃん注:私の家で、毎年、飾る連れ合のいものをお見せしよう。名古屋だから豪華である。今年も飾った。
私は雛人形が幼稚園の頃から大好きなのである。]