譚 海 卷之十三 室形作り家作よろしき事 夏月小屋に涼氣を生ずる事 火事の節疊出すやう取仕舞べきやうの事
[やぶちゃん注:底本の「目錄」では本文と順序に異同があるので順列を修正した。「室形作り」は「むろがたづくり」と読んでおく。なお、「目錄」では「夏月小屋に涼氣を生ずる事」の後に「火事の節疊出すやう取仕舞べきやうの事」とあるが、これは既に「譚海 卷之十二 火事用心の事」があり、ダブりと言わざるを得ない。]
○二階造りの家は、必(かならず)、室形(むろがた)に建(たつ)べし。暴風雨にも、ただよふ事、なし。
土藏は、別(べつし)て、室形にすべし。たとひ、土藏、ゆるみ、藏(くら)、かたぶきても、壁、破(やぶる)る事、なし。
常の「うし」を上(あげ)たる「屋(や)ね」は、土藏、くつろぐ時は、壁の、わるゝのみにあらず、「うし」へ、もたせ造(つくり)たる木、はづれて、くつがへり、たふるゝあやまち、あり。
[やぶちゃん注:「うし」不詳。建築会社の詳細な呼称を調べたが、出てこない。ただ、これは通常の「軒」の「端」の部分ではなかろうか。何故なら、屋根の軒部分の先端に出た鼻先を隠すために取りつけられた横板を「鼻隠し」(はなかくし)というからで、これを牛の鼻ととり、その「牛」のみで呼んだのではないかと思ったからである。]
○市中の家、建つゞきたる中(なか)は、暑月、炎氣にむされて、堪(たへ)がたし。ひあはひか[やぶちゃん注:底本には「か」の右に編者の補正注で、『(の)』とある。「ひあはひ」は「廂間・日間」で、「廂(ひさし)が両方から突き出ているところ・家と家との間の小路・日のあたらないところ」の意。]便宜よき所に、風穴(かざあな)を明(あけ)て、風を入(いる)べし。
風穴の造りやうは、南か、東西にある壁へ、疊つら[やぶちゃん注:意味不明。]と同じ所に、四、五寸四方ほどの穴をあけ、壁の外、したみ[やぶちゃん注:「下見」。家の外部の壁を覆う横板張り。端を少しずつ重ね、縦に細い木を打って押さえる。]へ付(つけ)て、段々に、箱を、空へむけて、大きく造るべし。其箱より、風、吹入(ふきいり)て、穴より、吹出(ふきいだ)すゆゑ、家の内、自然に涼氣、有(あり)。
たとへば、東の壁に穴を造れば、箱の口は、外にて南へ向ふように[やぶちゃん注:ママ。]すべし。西の壁に穴を造れば、箱の口、又、南へ向ひて、風を受(うけ)るやうにすべし。
○ある人、
「座敷の疊は、常のごとくに、こしらへ、居間より臺所をかけて、殘らず、疊三尺四方の床(ゆか)に、こしらへたり。火急のとき、婦人の仕舞(しまひ)にも、便宜、よし。」
と云(いへ)り。
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