譚海 卷之十 石川丈山が事
○石川丈山は、德川家の御家人成(なり)しが、大坂御陣に法令を背(そむき)て、先駈せし御叱(おしかり)にあひ、御暇(おんいとま)を乞(こひ)て、みやこ一乘寺村に隱居し、生涯、詩を樂しみて、八十餘歲にて絡たり。其詠ぜし歌に、
渡らじな蟬の小川の淸(きよ)ければ
老(おい)の波立(なみたつ)影も恥かし
とよみて、誓(ちかつ)て、京都に入らずして、終(をはり)たり、とぞ。
今、其住居せし詩仙堂は、黃檗宗の尼、住(すみ)てあり。
「丈山の遺物。」
とて、「殘月硯」。「木崐崙」、これは、木の自然香爐なり。「竹如意」。「椶櫚(しゆろ)の拂子(ほつす)」。「天造几(てんざうつくへ)」。「獅子榻(しししじ)」、六種、有(あり)。皆、丈山の銘、自筆八分字にて、書(かき)たるを、まき繪してあり。
[やぶちゃん注:先行する「譚海 卷之三 石川丈山閑居地」を見られたい。]
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