譚海 卷之十二 今樣はやりわざの事
○「今やう」の風俗、はやり行(ゆく)を、其まゝ、まなべば、又、程なく、新敷(あたらしき)風俗、流行(はや)りて、初めのは、すたる。
衣裳、拵ふるにも、其まゝに、こしらふれば、其(それ)、すたれたる時、俄(にはか)に拵へかふる事も成(なり)がたく、難儀なるもの也。何事も、はやり行(ゆく)風俗の中(なか)を取(とり)て用(もちふ)れば、なん[やぶちゃん注:底本では右に編者傍注があり、『(難)』とある。]もなく、うわきにも、あらで[やぶちゃん注:心のうつろいやすい気分も生じず。]、よろしき也。
一ころ、羽織のたけ、殊の外、みぢかきが、はやりたるが、此比(このごろ)は、又、ながき尺(しやく)、はやり、短き羽織、流行る時も、ながからず、みぢかからず、能(よ)き程に仕立て用(もちふ)れば、今、又、長きが、はやりたる中(なか)にも、さのみ、短かからで、俄かにめにたゝで、宜敷(よろしき)たぐひ、有(あり)。
袖のかたちも、また、然るべし。まるからず、角(かど)ならず、中をとりて、用るべき事也。