譚海 卷之十二 不動經の事
○「不動經」は、
「擬經(ぎきやう)也。」
と、いへども、甚(はなはだ)有難(ありがたき)もの也。
全體、不動尊は、勇猛の相(さう)を示して、人身の五臟に配したる本尊也。
左手に縛(ばく)[やぶちゃん注:「縛繩(ばくじよう)」。]を取(とり)て、不退の心を堅く持(じ)し、右手に賓劍を取て、金剛の定心(ぢやうしん)を、たゆまぬ形、也。火焰に坐し給ふは、煩惱を消滅し給ふ「かため」也。シキの方(はう)にては、不動尊を火焰にてつゝみたる事に拵(こしら)ふ事也。都(すべ)て、請尊の火焰を帶(おび)給ふは煩惱を燒除(しやうじよ)するの儀也。
[やぶちゃん注:「不動經」正しくは「仏說聖不動經」であるが、津村の言う通り、真の仏典ではなく、本邦の修験道で唱えられる不動明王の経であり、実際には、日本で成立した偽経である。
「擬經」はママ。この語は「中国で経(けい)書を摸擬して著作すること」を言うので、誤字。「偽作された仏教経典」の謂いだから、「僞經」が正しい。]