譚 海 卷之十三 山掛豆腐の事 鮭魚粕漬仕やうの事 南天飯焚やうの事 小豆茶漬飯の事 からし菜酒肴につかふ樣事 飯すえざる心得の事 柳庫裏百人前辨當卽時に辨ずる事
○「芋かけどふふ」は、すりたる「いも」を、大根のしぼり汁にて、ときたるがよし。一品あるもの也。
○鮭を粕漬にするには、鮭を丸のまゝにて、「半ぎり」に、ひたし、鹽出(しほだ)しをする事、二日ほどへて、取出(とりいだ)し、よくよく、ぬぐひて、焚火(たきび)の上に掛置(かけおく)事、廿日ばかりにして、取(とり)おろし、「ふきん」にて、ぬぐひ、煤(すす)を取(とり)て、扨(さ)て、粕を、すり鉢にて、よく、すりやはらげて、鮭を切身にして漬(つけ)る事也。
○「靑梅飯(せいばいはん)」と云(いふ)は、もろこしにて、道士の、中元に製して送饋(さうき)[やぶちゃん注:贈答品。]するもの也。南天の葉を、すりくだき、その汁にて焚上(たきあげ)たる飯(めし)也。少しばかり、色、付(つき)て、赤く成(なる)もの也。
「精氣を益功ある。」
よし、云(いふ)。
[やぶちゃん注:「南天」キンポウゲ目メギ科ナンテン亜科ナンテン属ナンテン Nandina domestica。
「精氣を益功ある」はママ。「を」は「に」の誤記・誤判読か。]
○小豆を煮あげて、丸のまゝにて飯へ少しかけ、燒鹽(やきじほ)を、少し、加へ、にばなの茶をかけて、かきまはして、くふ。菜には肴(さかな)一種、味噌の汁を用ふ。羽州秋田の俗、常に調ずる事也。
[やぶちゃん注:「にばなの茶」「煮端」で煮たばかりの茶の意か。]
○湯を、にゑ[やぶちゃん注:ママ。]かへらし、鹽を、よほど入(いれ)て、ひやし置(おき)、からし菜を切(きり)て、此湯にて器物(うつはもの)に漬(つけ)て、そのまゝかたく封じて、氣(かざ)をもらぬやうにして、翌朝より、開封して用ゆ。からしの匂ひ、殊に愛すべし、酒の肴に用(もちひ)て、すつる事を得ず。
[やぶちゃん注:「からし菜」アブラナ目アブラナ科アブラナ属セイヨウカラシナ変種カラシナ Brassica juncea var. cernua 。「芥子菜」「辛子菜」。日本への伝来は古く弥生時代ともされ、平安中期編纂になる「本草和名」や、源順の辞書「和名類聚鈔」に既に記載がある。]
○飯は少しやわらかに焚(たき)て、飯櫃の内へおしつけて、つめ、風にあてぬやうにしてをけば、暑中も、すえる事、なし。
○辨當庫裏[やぶちゃん注:底本では「庫裏」には右に編者による補正傍注があり、『(行李)』とある。これで納得出来た。]といふものは、雜人(ざうにん)[やぶちゃん注:「雜色(ぞうしき/ざつしき)」に同じ。貴顕の家や官司などに仕えて、雑役を勤めた卑賤の者の称。]の具に拵へたるもの也。急に、二、三百人の辨雷を調じ出(いだ)さんとする時は、此「こり」へ、米を一人何合と定め、はかり入(いれ)て、其まゝ「こり」を、いとにて、からげ、大釜の中へなげ入(いれ)、なげ入して、暫時、「こり」とともに、引出(ひきいだ)して、そのまゝ持行(もちゆく)事也。持行路次(ろし)の間(あひだ)に、この米、水、かはきて、くはんとするとき、ひらきて見れば、よき程成(なる)飯に成(なり)てある也。
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