譚 海 卷之十三 ついたて製の事 風りんの事 椽の下に植る草の事
○ついたては、二枚障子を仕付(しつける)たる、よし。障子をひらきて、用を辨ずるに便(びん)、有(あり)。狹き座敷などの「へだて」には、障子、殊に、よし。
○風鈴は長物(ながもの)なれば、觀物(みるもの)に成るやうにすべ。短册など付(つけ)たるは、俗に近し。花にて、しだり櫻か、柳か藤のたぐひを付(つく)べし。風になびたる體(てい)、風流なるもの也。
[やぶちゃん注:今度、やってみたくなった。]
○椽(えん)がはの下には、必(かならず)、觀音草(くわんのんさう)か、石菖蒲(せきしやうぶ)か、「しやが」などを植(うう)べし。幽致(いうち)ありて、冬月、又、色を變ぜず、翫(もてあそぶ)べし。
[やぶちゃん注: 「觀音草」単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科スズラン亜科キチジョウソウ(吉祥草)属キチジョウソウ Reineckea carnea の異名。当該ウィキによれば、『日本国内では関東から九州、また中国の林内に自生し、栽培されることもある』。『家に植えておいて花が咲くと』、『縁起がよいといわれるので、吉祥草の名がある』。『地下茎が長くのびて広がり、細長い葉が根元から出る』。『花は秋に咲く。根元にヤブランにやや似た穂状花序を出し、下部は両性花、上部は雌蕊のない雄花が混じり、茎は紫色。花は白い花被が基部で合生し筒状となり、先は』六『裂して反り返り』、六『本の雄蕊が突き出る』。『果実は赤紫色の液果』であるとある。そこの画像もリンクさせておく。
「石菖蒲」単子葉植物綱ショウブ(菖蒲)目ショウブ科ショウブ属セキショウ(石菖) Acorus gramineus のこと。
「しやが」単子葉植物綱ユリ目アヤメ科アヤメ属シャガ Iris japonica 。十一日前に十三年忌を迎えたALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くなった母テレジア聖子(若き日に洗礼を受け、修道院に入って、後には長島愛生園に行ってハンセン病患者の世話をすると決めていた。しかし従兄であった父が強引に結婚を申し込んで、母曰く、亡くなる直前まで、「『放蕩息子』になってしまった。」と呟いていた。亡くなる直前にキリスト系病院であったことから、私が過去の事実を述べ、最期の時、外人の司祭さまが来られ、葬送の儀を行って呉れた。母は慶応大学医学部に献体しており(私と連れ合いも同じ)、そのまま大学が病院まで迎えに来て呉れた。見送ったのは、父と私と連れ合いと看護婦の方の四人だけだった。遺骨は多磨霊園の同大医学部の霊廟に入っている。私と連れ合いも後、同じ骨壺に入る)が大好きな花で、よく植えていた(父は入院中で、遺影を父に見せようと持って行ったが、遂に目を開けなかった。而して、その三日後に心筋梗塞で父は逝ったが、考えてみれば、亡き母が天国から迎えに来て呉れたものと、今は思う)。父の逝去の前後、私は黙々と家の斜面の葛と竹を伐採し続けた。連れ合い曰く、「お母さんの好きだったシャガの繁殖地が戻ったわ。」と言った。私も好きな花である。母さん、父さん、「エリス・ヤポニクス 村上昭夫」を捧げます――]
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