譚海 卷之十二 武州秩父郡をいさぎの事
[やぶちゃん注:標題の「郡」は一応、「こほり」と訓じておく。]
○「秩父邊(へん)に『をいさぎ』といふもの、あり。是は、四國、『犬神』といふたぐひにて、一人、此(これ)、『をい鷺(さぎ)』の血筋なるもの、有(あり)て、人の家にあるもの、何にても、此もの、ほしがり、おもふ時は、やがて、『をいさぎ』、其家に至りて、わづらはす事、あり。酒などつくるに、付(つき)たる[やぶちゃん注:「憑(つ)きたる」であろう。]には、作り込(こみ)たる酒米(さかまい)の中(なか)、ことごとく、死(しし)たる鼠のから[やぶちゃん注:「骸(から)」。死骸。]、出來(いでき)て、米に、まじり、あふれ、けがらはしき事、いふばかりなし。」
と、秩父より來(きた)る女の、ものかたり也。
[やぶちゃん注:「をいさぎ」「をい鷺」不詳(鷺類は江戸時代までの民俗社会ではしばしば妖獣と誤認され、私の怪奇談集でも枚挙に遑がないほどある)。しかし、ここに記された「犬神」の「たぐひ」であるとか、以下の、人にその妖獣の「血筋」の家があり、その人に見込まれると、激しい怪現象が惹起されるというのは、「飯綱使(いずなづか)い」の家系を直ちに想起する。「おさきぎつね」・「くだぎつね」等と呼ぶ妖狐系の妖獣で、これは私の記事では多く出ており、総てを示せ得ないほどであるのだが、取り敢えず、ここでは「柴田宵曲 妖異博物館 飯綱の法」が参考になるはずである。]

