譚海 卷之十 肥前平戶鯨漁獵の事 / 卷之十~了
[やぶちゃん注:本篇を以って「卷之十」は終っている。]
○肥前平戶の鯨は名品なり。每年、百三、四拾喉(こん)ほどづつ、獵し、得るなり。
獵を業(なりはひ)とするもの、十八軒、有(あり)、みな、豪富にして、僮僕(どうぼく)二、三百口ほどづつを、やしなふ。
鯨の運上(うんじやう)、領主へ、いだす事、鯨一喉にして、百金づつなり。
其後(そののち)、鯨を割截(かつさい)して、魚膏(うをあぶら)を絞り、肉を沽却(こきやく)する[やぶちゃん注:「賣る」。]にいたつて、また一喉に付(つき)、魚膏三桶、金拾五兩をいだす事、とぞ。一喉、沽卻する價(あたひ)、十倍なる事と、しられたり。
「春初(はるはじめ)に漁(りやう)し得たるをば、官に獻上となるゆゑ、運上を役(えき)せず。」といふ。
[やぶちゃん注:「運上」江戸時代の租税の一種。当該ウィキによれば、『江戸時代に入ると、小物成』(こものなり:近世、田畑に対する本年貢を「本途物成」というのに対して、山年貢・野年貢・草年貢等の雑税をいう。郷帳に記され、金額も定額が多いが、年季を限り、年によって増減のあるものもあった。小年貢)『の』一『つとして租税化した。農業以外の各種産業(商業・工業・漁業など)の従事者に対して一定の税率を定めて課税したものを運上と呼んだ。これに対して』、『特定の免許を得てその代わりに一定の税率等を定めずに必要に応じて上納させたものを冥加(冥加金)と呼んだ』が、『時代が下るにつれて両者の明確な違いは失われていった。内容は賦課の主体が幕府か藩かなどによって異なる』。『運上は通常年単位で一定額を賦課し、対象者は年季完了時までに原則金納にて納付を行い、その願出によって新しい年の課税額を決定した上で年季を改めた。ただし、年季については原則は』一『年単位であったが、複数年単位で契約を行い、複数年、場合によっては』十『年・』二十『年を一単位としている事例がある』とあった。この最後の謂いは、初春に鯨の大物一頭を、そのまま「運上」として平戸領主に出してしまうので、その後一年は、それ以外の「運上」物、或いは、その代りとして別な賦役をせねばならないことは、一切ない、ことを言っている。
「喉」「コン」で接尾語で数詞。魚を数えるのに用いる。]

