譚 海 卷之十三 桃花の事 姬笹の事 石菖蒲の事 よもぎの事 毒ある樹の事 またゝびの事 ほとゝぎす草の事 孟宗竹の事 竹を伐方の事
○桃は、水邊には、かじけて[やぶちゃん注:「萎(しぼ)んで」。]、生じ難し。市中(いちなか)には、生長す。五年めに、枝を切るべし。花をひらく事、さらに、おほし。
○「ひめ笹」といふものあり。「いさは」とて、殊に小き笹也。雨(あま)だりに植(うゑ)て、「りうの髭」に、かふるべし。
[やぶちゃん注:「ひめ笹」「姬笹」。イネ科タケ亜科ササ属ミヤコザサ(都笹)Sasa nipponica の別名。「いさは」は見当たらないが、似た「イトザサ」があり、「いさは」は「斑葉(いさは)」で、草木の葉の表面に白・黄・赤など色の異なった斑点、線紋などがあることを言う語であり、グーグル画像検索で学名を検索すると、所謂、葉の辺縁全体に、白い「隈」=線紋があるから、それであろう。
「雨だり」「雨垂り」で、あまだれが落ちる軒下。
「りうの髭」「龍の髭」。常緑多年草であるユリ目ユリ科ジャノヒゲOphiopogon japonicusの別名。]
○石菖蒲(せきしやうぶ)は、春、古葉(ふるば)を、殘らず、切取(きりとる)べし。夏月、若葉を生じて、翠色(みどりいろ)、尤(もつとも)奇麗なり。
[やぶちゃん注:「石菖蒲」単子葉植物綱ショウブ(菖蒲)目ショウブ科ショウブ属セキショウ(石菖) Acorus gramineus のこと。]
○「またゝび」は、垣に造りて、まとはすべし。四月、白花をひらく。梅花のごとし。葉をば、「ひたしもの」にして用(もちひ)る也。
[やぶちゃん注:ツバキ目マタタビ科マタタビ属マタタビ Actinidia polygama 。当該ウィキによれば、『春から初夏にかけて若芽やつる先を摘み取り、塩を多めに入れて茹でて、水にさらしてアク抜きする』。『若芽やつる先は、おひたしや和え物、油炒め、椀種、生のまま天ぷらにもする』『葉は、おひたしにして食べる事がある』『が、アレルギーを生じる事がある』。『花は酢の物に利用する』とあった。]
○蓬(よもぎ)をば、「そへ木」をして、すぐに、そだつべし。長(たけ)、五、六尺に成(なる)也。花をば、めを、あらふに、用(もち)ゆ。葉をも、「かげぼし」にして、用ゆべし。
○「やつで」といふ樹、植(うう)べからず。毒、有(あり)。
「料理の『かいしき』に用(もちひ)て、人を害する事、ありし。」
と、いへり。
「『すわう』の樹も、毒、有。」
と、いへり。
[やぶちゃん注:「やつで」セリ目ウコギ科Aralioideae亜科ヤツデ属ヤツデ Fatsia japonica の当該ウィキによれば、『葉などには』、石鹸成分と同じサポニン(saponin)の一種である『ヤツデサポニンという物質が含まれ、過剰摂取すると下痢や嘔吐、溶血を起こす』とあった。
「『すわう』の樹」小高木でインド・マレー諸島原産のマメ目マメ科ジャケツイバラ亜科ジャケツイバラ連ジャケツイバラ属スオウ Biancaea sappan があり、本邦には古く八世紀以前に渡来している(色の「蘇芳」の元)が、漢方薬であるが、有毒ではない。この場合は、「スオウ」の異名を持つ、沖縄を除く日本全国に普通に見られる裸子植物門イチイ綱イチイ目イチイ科イチイ属イチイ Taxus cuspidata を指している。当該ウィキによれば、『果肉を除く葉や植物全体に有毒・アルカロイドのタキシン(taxine)が含まれている』。『種子を誤って飲み込むと中毒を起こす。摂取量によっては痙攣を起こし、呼吸困難で死亡することがあるため』、『注意が必要である』とある。なお、イチイは「一位」「櫟」と漢字表記するが、『神官が使う笏がイチイの材から作られたことから、仁徳天皇がこの樹に正一位を授けたので「イチイ」の名が出たとされている』とあった。]
○「ほとゝぎす」といふ草、秋、花をひらく。葉は「めうか」の如く、花は百合に似たり。
「八丈島より、わたり來(きた)る。」
といふ。
[やぶちゃん注:「ほとゝぎす」単子葉植物綱ユリ目ユリ科ホトトギス属ホトトギス Tricyrtis hirt 。私は、独身の頃、老夫婦が経営する飲み屋によく行ったが、その奥方(旦那より遙かに若く美しい方だった)から、この少し成長した若草を頂戴し、昔の今の家の庭に植え、二年ほど美しい花を咲かしていた。
「めうか」不詳だが、多分、ショウガ目ショウガ科ショウガ属ミョウガ Zingiber mioga のことであろう。]
○孟宗竹といふもの、近年、「さつま」より渡り來る。冬より、竹の子を生じ、春半(なかば)、すでに、一、二尺に及ぶ。暖地に植(うゑ)て、よろし。竹は、殊に、大きなるもの也。葉は、こまかし。
[やぶちゃん注:単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科マダケ属品種モウソウチク Phyllostachys heterocycla f. pubescens 。]
○竹を切(きる)には、根を、ほりて、切取(きりとり)、その跡へ、土を、かけおけば、よく生長する也。土より上にて、きれば、切(きり)たる所より、露・霜、通りて、其根、枯(かれ)て、ふたたび生ずる事、なし。
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