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2024/04/20

南方熊楠「江ノ島記行」(正規表現版・オリジナル注附き) (8) / 「江ノ島記行」~完遂

[やぶちゃん注:底本・凡例等は「(1)」を参照されたい。なお、最後に配された「江島採集購收品」のリストは底本では全体が一字下げであるが、無視した。また、項目によっては、一行に別項目が続いているが、ブラウザの不具合を考え、総て独立条として改行した。字間も縮めた箇所が多い。頭の丸括弧数字は半角であるが、全角にした。部分が多くある学名を「〃」で示した箇所は判り難いので、文字化した。【 】は底本では二行割注。学名は斜体になっていない。既に既注の生物は注さない。]

 

  ○十九日快晴【但し朝の間島内に霧有り】

 朝六時起き頗る爽快、朝餐後島上に至り介類二十種ばかりを購收す。九時頃宿を出でゝ沙濱を徐步[やぶちゃん注:「じよほ」。静かにゆっくりと歩くこと。]し、片瀨村に至る。富嶽天に聳て密雲圍擁し、箱根足柄、翠のごとく黛の如く風景絕佳なり。藤澤驛中道を誤つて東すべきを西し、行く事一里許、之を人に問て初て其小田原街道たるを知り、步を却して後、藤澤に出で、こゝに腕車に乘り、戶塚に至る。道の左右松樹を列栽す。人家の屋上多く「イチハツ」を生せるを見る【此事曾て某書にて見たりき】。戶塚を過ぎて腕車を下り保土ケ谷に至る。それより神奈川に着しは四時三十分にして、四時五十一分急行列車に乘り歸京す。

[やぶちゃん注:「イチハツ」単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科アヤメ属イチハツ Iris tectorum で、この情景は、所謂、「屋根菖蒲」である。明治期に本邦に来た外国人は、これに感動した。例えば、「日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第一章 一八七七年の日本――横浜と東京 4 初めての一時間の汽車の旅」や、かの「小泉八雲 落合貞三郎訳 「知られぬ日本の面影」 第四章 江ノ島巡禮(一)」(まさに鎌倉・江ノ島である)を是非、読まれたい。私は二十一の時、鎌倉十二所の光触寺への参道沿いの左手にあった藁葺屋根の古民家の棟に開花しているのを、嘗ての恋人と一緒に見上げたのが、最後であった。

江島採集購收品  採集品へは△を附す[やぶちゃん注:これは、当該品の最初の一字に「△」が附されているものであるが、ここではその種名の全体を太字とした。

植   物 胡桃科 實核一個 江島海濱にて拾ふ

[やぶちゃん注:「胡桃科」ブナ目クルミ科 クルミ属 Juglans 。本邦に自生しているクルミの大半はクルミ属マンシュウグルミ変種オニグルミ Juglans mandshurica var. sachalinensis である。他に、近縁種のヒメグルミJuglans mandshurica var. cordiformisも見かける。]

動   物

  無脊髓動物 Invertebrata

   海綿類 Spongida

(一)海綿 Spongida sp.

(二)ホッスガイ Hyalonema Sieboldii

  射形動物Actinozoa

[やぶちゃん注:「射形動物Actinozoa」現行では花虫綱(かちゅうこう:Anthozoa)と和名する。刺胞動物門の分類群の一つで、イソギンチャクやサンゴを含む。]

(三)やぎ一種 Gorgonia sp.

(四) きんやぎ Gorgonia sp.

[やぶちゃん注:同定が正しいなら、花虫綱八放サンゴ亜綱ウミトサカ目石灰軸亜目キンヤギ科キンヤギ属 Chrysogorgia の一種である。]

(五)石芝ひらたけいし Fungia sp.

[やぶちゃん注:担子菌門ハラタケ亜門ハラタケ綱Agaricomycetesタマチョレイタケ目マンネンタケ科 Ganodermataceaeのキノコか。]

(六)うみぼうき

[やぶちゃん注:不詳。この和名や異名は知らない。刺胞動物門花虫綱八放サンゴ亜綱ウミトサカ目石灰軸亜目キンヤギ科 Chrysogorgiidae の一種か。]

(七)とくさいし Isis sp.

[やぶちゃん注:同前。イシスはIsididae科の深海性のタケサンゴ(竹珊瑚)の属名。]

  棘皮動物 Echinodermata

   (1) 海百合類 Crinoidea

(八)海百合【一種大なる者】

[やぶちゃん注: 棘皮動物門ウミユリ綱関節亜綱 Articulataのウミユリ類。孰れの種も深海性。]

(九)仝一種小なる者 江島海濱にて採る。

    (2) 海膽類 Echinoidea

(十)たこのまくらの類【案するに本草啓蒙に所謂きんつばならんか。】

[やぶちゃん注:棘皮動物門ウニ綱タコノマクラ目タコノマクラ科タコノマクラ属 Clypeaster の一種。タイプ種はタコノマクラ Clypeaster japonicus 。これは購入物であるが、生体でない殼なら、七里ガ浜でもよく拾える。

「本草啓蒙に所謂きんつばならんか」国立国会図書館デジタルコレクションの板本の小野蘭山述の「本草綱目啓蒙」の「卷四十二」の「海燕」(タコノマクラの類)の項の、ここ(右丁七行目)に『豫州ニテ キンツバ云』とある。]

    (3) 海星類 Asteroidea

(十一)ヒトデ一種 Asterias sp.

(十二)ヒトデ一種 Asterias sp.

[やぶちゃん注:棘皮動物門ヒトデ(海星)綱Asteroideaのヒトデ類。]

    (4) くもひとで類 Ophiuroidea

(十三)くもひとで Ophiura sp.

[やぶちゃん注::棘皮動物門星形動物亜門クモヒトデ(蛇尾)綱Ophiuroidea。ヒトデのように移動に管足を使わないことが特徴で、一般にクモヒトデ類は、五本の細長い鞭状の腕を有する。これは購入物であるが、いてもおかしくないが、江ノ島では、私は見たことがない(岩礁帯を精査すれば見つかるだろうとは思う)。修学旅行の引率で行った沖縄では、ワンサカ、いた。観察に夢中になり、バス・ガイドに「早く、戻って下さい。」と注意された。]

 被殼動物 Crustacea

[やぶちゃん注:現在の甲殻類。]

    (1) 異足類 Amphipoda

[やぶちゃん注:現在の端脚類。]

(十四)トビムシ一種 七里濱にてとる

    (2) 十足類 Decapoda

(十五)イセエビ Panulirus japonicus

[やぶちゃん注: 節足動物門軟甲綱十脚目イセエビ科イセエビ属イセエビ Panulirus japonicus 。鎌倉・江ノ島附近では古くは「鎌倉海老」とも呼ばれた。]

(十六)ヒゲガニ【この種の小なる者先年紀州加太浦にて獲たり全體やゝ蜘蛛に似たり】

[やぶちゃん注:十脚目短尾下目Corystoidea上科ヒゲガニ(鬚蟹)科ヒゲガニ属ヒゲガニ Jonas distinctus 。和名は第二触覚や脚などに細かい鬚があることに拠る。、甲幅二・五センチメートルほどの楕円形を成す。私は七里ガ浜で死蟹を採取したことがある。]

(十七)大まんぢうがに

[やぶちゃん注:ママ。歴史的仮名遣では「まんぢゆうがに」が正しい。甲殻亜門軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目抱卵亜目短尾下目オウギガニ上科オウギガニ科ウモレオウギガニ亜科マンジュウガニ属 Atergatis の一種か。「オオマンジュウガニ」という種はいないから、大型のそれである。有毒蟹として知られるマンジュウガニ属スベスベマンジュウガニ Atergatis floridus の大型個体の可能性がある。]

(十八)マンジュウガニ

(十九)同一種

(二十)同一種

(廿一)[やぶちゃん注:底本では、ヘッド番号だけで、底本には記載がない。属レベル或いはその上位タクソンで判らなかったために空欄としたものだろう。以下、空欄は同じ。]

(廿二)ちからがに Phylira sp.

[やぶちゃん注:「ちからがに」の和名は不詳。しかし、学名から、軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目抱卵亜目短尾下目コブシガニ上科コブシガニ科コブシガニ亜科マメコブシガニ属Philyra であることが判るが、私は生体の小さなヒラコブシ Philyra syndactylaを七里ガ浜で採取したことがある。形状から、この種群の孰れかであるというのは「ちからがに」の名では腑に落ちる。]

(廿三)ツトガニ

[やぶちゃん注:不詳。「苞蟹」か。それでも判らないが。]

(廿四)

(廿五)ショウジンガニ

(廿六)

(二七)[やぶちゃん注:ここは空欄だが、熊楠が採取した個体であることを示す『△』のみが附されてある。]

(廿八)

(廿九)イバラガニ PisaParamaijaspinigera

[やぶちゃん注:軟甲綱真軟綱亜綱エビ上目十脚目異尾下目タラバガニ科イバラガニ属イバラガニ Lithodes turritus 。]

(三十)セミガニ Lyreidus tridentatus, n. sp.

[やぶちゃん注:これは学名から、短尾下目アサヒガニ上科アサヒガニ科ビワガニ属ビワガニ Lyreidus tridentatus である。「n.」は「新種」を意味する略号である。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページをリンクさせておく。]

(卅一)えびの一種

 六肢蟲類 lnsecta

[やぶちゃん注: 節足動物門六脚亜門昆虫綱 Insectaのこと。]

(卅二)瓢蟲(ななほしてんとうむし)Coccinella 7-punctata

[やぶちゃん注: 昆虫綱鞘翅(コウチュウ)目テントウムシ科テントウムシ亜科テントウムシ族ナナホシテントウ Coccinella septempunctata 。]

(卅三)こがねの一種小なるもの

[やぶちゃん注: 鞘翅(コウチュウ)目カブトムシ(多食)亜目コガネムシ下目コガネムシ上科コガネムシ科 Scarabaeidaeのコガネムシ類。狭義にはコガネムシ属コガネムシMimela splendens 。]

(卅四)地膽 Meloe sp.  この三蟲は藤澤近傍にて獲

[やぶちゃん注: 鞘翅(コウチュウ)目ゴミムシダマシ上科ツチハンミョウ科 Meloidae のツチハンミョウ類。]

 蘚狀蟲類 Polyzoa

[やぶちゃん注: 現在の外肛動物門 Bryozoa の内の群体を成すコケムシ類。]

(卅五)

(卅六)

 臂足類 Brachiopoda

[やぶちゃん注:真正後生動物亜界冠輪動物上門腕足動物門 Brachiopoda。底生無脊椎動物である、所謂、舌殻亜門舌殻綱舌殻目シャミセンガイ科シャミセンガイ(リンギュラ)属ドングリシャミセンガイ Lingula jaspidea(シノニム:Lingula rostrum )に代表される原始的な生物である。「御雇い外国人」で江ノ島に初めて海洋研究所を建てたE.S.モースの専門はシャミセンガイの研究であった。もう、江ノ島にはシャミセンガイはいない。私のブログ・カテゴリ『「日本その日その日」E.S.モース 石川欣一訳【完】』をどうぞ!]

(卅七)ほゝづきがひ Terebratula

[やぶちゃん注:テレブラチュラ属。前記腕足動物門中の代表的な化石属名。殻の外形は円形に近く、蝶番(ちょうつがい)の線は、極めて短く、湾曲している。殻は有斑で、表面は平滑。強い肉茎によって他物に付着して生活ししていたが、茎孔は丸く、殻頂に位置する。腕骨は環状。三畳紀から現世まで分布するが,ジュラ紀以降に繁栄した。]

(卅八)同一種T.sp.

 平鰓類 Lamellibranchiata

[やぶちゃん注:和名は「弁鰓類」「弁鰓綱」で、所謂「斧足類」、則ち、二枚貝類Bivalviaを指す。]

(卅九)にしきがひ

[やぶちゃん注:軟体動物門二枚貝綱翼形亜綱イタヤガイ目イタヤガイ上科イタヤガイ科カミオニシキ亜科カミオニシキ属ニシキガイ Chlamys squamata 。]

(四十)つきひがひ Pecten japonicus Gmel.

[やぶちゃん注:軟体動物門二枚貝綱翼形亜綱イタヤガイ目イタヤガイ上科イタヤガイ科ツキヒガイ亜科ツキヒガイ属ツキヒガイ Ylistrum japonicum 。]

 角貝類 Scaphopoda

[やぶちゃん注: 軟体動物門掘足綱ツノガイ目 Dentaliida・クチキレツノガイ目Gadilidaのツノガイ類。]

(四一)ツノガイ Dentalium octogonum, Lam.

[やぶちゃん注:ツノガイ目ゾウゲツノガイ科ゾウゲツノガイ属ヤカドツノガイ Dentalium octangulatum 。]

 腹足類 Gasteropoda

(四二)ぢいがぜ Chiton sp.

[やぶちゃん注: 熊楠は腹足類(巻貝類)に入れてしまっているが、これは軟体動物門多板綱 Polyplacophoraのヒザラガイ(膝皿貝)類して知られているそれで、誤りである。岩礁に扁平な体で貼りついていて、背面に一列に並んだ八枚の殻を持っている、あれである。ここは狭義の知られたウスヒザラガイ亜目クサズリガイ科 Chitonidaeヒザラガイ属ヒザラガイAcanthopleura japonica を挙げておく。]

(四三)鰒魚(とこぶし) Haliotis Tokobushi

[やぶちゃん注:腹足綱前鰓亜綱古腹足目ミミガイ科ミミガイ属トコブシ Haliotis diversicolor 。]

(四四)Troghus sp. こしだかがんがら

[やぶちゃん注:所謂。「シタダミ」の流通通称で知られる、腹足綱前鰓亜綱古腹足亜綱ニシキウズガイ目ニシキウズガイ上科リュウテン科クボガイ亜科クボガイ属コシダカガンガラ Tegula rustica 。]

(四五)くまさかゞひ Xenophora pallidulla

[やぶちゃん注:腹足綱前鰓亜綱盤足目クマサカガイ超科クマサカガイ科クマサカガイ属クマサカガイ Xenophora pallidula 。和名は義経伝説に登場する平安末期の大盗賊熊坂長範(くまさかちょうはん)に由来する。深海で見つかることが多く、ビーチ・コーミングでも、まず出逢うことはない。和名は、自分の殻表に死んだ他の貝殻や礫等を附着させて擬態する習性を盗人に擬えたものである。]

(四六)Conus sp.

[やぶちゃん注:腹足綱新腹足目イモガイ科イモガイ亜科イモガイ属 Conus のイモガイ類。軟体部を殻の奥に縮めると、開口部から軟体部が見えなくなる種が多いことから、「ミナシガイ」の異名を持つ。捕食性で、歯舌が特化した神経毒の毒腺が附いている小さな銛で他の動物を刺し、麻痺させて摂餌する。毒は種によって異なるが、ヒトが刺されて死亡するケースもある。]

(四七)

(四八)

(四九)けりがい[やぶちゃん注:ママ。以下、同じ。]

[やぶちゃん注:これは腹足綱前鰓亜綱笠形腹足上目ユキノカサガイ科シロガイ属カモガイ(鴨貝) Collisella dorsuosa である。笠形の貝で、別名「キクガモ」「ケリガイ」。北海道南部から日本全国、さらに台湾にかけて分布し、殻長径二センチメートル、殻幅一・七センチメートル、殻高一・七センチメートル。殻頂は前方に寄っており、幾らか鷲鼻状に曲がり、そこから、多少、顆粒状の放射肋が、二、三本ほど走る。殻の周縁は中央側縁で、やや凹む。殻内は白く、中央は褐色に彩られる。岩礁の波飛沫(なみしぶき)のかかる辺りにコロニーをつくり、冬は群れを解いて避寒し、春になると、元の着生場所に戻る習性がある(小学館「日本大百科全書」に拠った)。サイト「微小貝データベース内」の同種のページで貝殻が確認出来る。]

(五〇)きせるがい

[やぶちゃん注:「煙管貝」で軟体動物門腹足綱有肺目キセルガイ科 Clausliidaeの陸生巻貝である。]

(五一)えうらく Typhis sp.

[やぶちゃん注:「瓔珞」で腹足綱新生腹足亜綱新腹足目アクキガイ科クダヨウラク属の一種のようである。サイト「微小貝データベース内」の同種のページで貝殻が確認出来る。]

(五二)同一種 Typhis

(五三)ほしだから Cypraea sp.

[やぶちゃん注:実は学名は「Cypraeu」となっているが、誤植と断じ、特定的に訂した。後の(五四)から(五七)までの学名部は「〃」であるが、総てプリントした。これは、多くの土産物屋でお馴染みの、腹足綱吸腔目タカラガイ科Cypraeinae亜科Cypraeini族タカラガイ属ホシダカラCypraea tigris である。]

(五四)同一種 Cypraea sp.

(五五)たからがひ一種Cypraea sp

(五六)同一種Cypraea sp

(五七)同一種 Cypraea sp.

(五八)うづらがひ一種

[やぶちゃん注:「鶉貝」で、腹足綱ヤツシロガイ上科ヤツシロガイ科ヤツシロガイ属ヤツシロガイ Tonna luteostoma の異名である。私の好きな貝殻で、殻高さ十センチメートル超の大振りのそれを持っていたが、高校二年の時、秘かに憧れていた若い女性事務員(二歳年上であった)に赤いリボンを巻いてあげてしまった。]

(五九)[やぶちゃん注:ここは空欄だが、熊楠が採取した個体であることを示す『△』のみが附されてある。]

(六十)がんがら

[やぶちゃん注:腹足綱前鰓亜綱古腹足亜綱ニシキウズガイ目ニシキウズガイ上科リュウテン科クボガイ亜科クボガイ属コシダカガンガラ Tegula rustica 。とても美味い。]

(六一)捘尾螺 小なるもの Triton sp.

[やぶちゃん注:「捘尾螺」はママ。これは熊楠の誤記か誤植で「梭尾螺」が正しい。「ほらがひ」で、腹足綱前鰓亜綱中腹足(盤足)目ヤツシロガイ超科フジツガイ科ホラガイ亜科ホラガイ属ホラガイ Charonia tritonis のことである。「Triton」は属名ではなく、同種の英名「Triton's trumpet」を部分引用したものである。]

(六二)あみがさがひ

[やぶちゃん注:腹足綱前鰓亜綱(始祖腹足類)カサガイ目ヨメガカサガイ科ヨメガカサガイ属アミガサガイ Cellana grata stearnsi 。]

(六三)くるまがひ

[やぶちゃん注:腹足綱低位異鰓目クルマガイ上科クルマガイ科クルマガイ属クルマガイArchitectonica trochlearis 。]

(六四)つとがい Ovulum volva

[やぶちゃん注: 腹足綱直腹足亜綱後生腹足下綱新生腹足上目吸腔目高腹足亜目タマキビ下目タカラガイ上科ウミウサギガイ科ヒガイ属ヒガイ Volva volva habei 。フォルムが私のお気に入りの貝である。]

 魚類 Pisces

(六五)ねこざめCestracion philippi Lasepの齒【江島にて名荷貝と呼】及び緬[やぶちゃん注:「はらご」。]【方言なみまくら】

[やぶちゃん注:前者は「サザエワリ」(栄螺割)の異名を持つ、軟骨魚綱板鰓亜綱ネコザメ目ネコザメ科ネコザメ属ネコザメ Heterodontus japonicus 。同種の歯は前歯が棘状を成すが、後歯が臼歯状に広がる。グーグル画像検索「ネコザメの歯」をリンクさせておく。

「名荷貝」(みやうががひ)はネコザメの下顎の歯である。「南方熊楠記念館」の「熊楠のお宝これは何でしょう①」を見られたい。なお、全く同じ和名の節足動物門甲殻亜門顎脚綱鞘甲亜綱蔓脚下綱完胸上目有柄目Scalpellomorpha亜目ミョウガガイ科ミョウガガイ属ミョウガガイ Scalpellum stearnsii がいるので注意されたい。

「緬」「方言なみまくら」これはネコザメのスクリュー型の卵嚢を指す。グーグル画像検索「ネコザメ 卵嚢」をリンクさせておく。]

(六六)うみすゞめ

[やぶちゃん注:顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区棘鰭上目スズキ系フグ目フグ亜目ハコフグ科コンゴウフグ属ウミスズメ Lactoria diaphana 。眼上に棘が、腹側にも隆起棘が、また、隆起中央の後方にも棘があるので、一見して同種と見分けられる。]

(六七)たいむこのげんぱち Monocentris japonicus Hout【方言えびすだい[やぶちゃん注:ママ。]】介肆の主此魚の胸鰭或は開き或はたゝむとも毫も折損せずとて示したり。

[やぶちゃん注: 条鰭綱棘鰭上目キンメダイ目マツカサウオ科マツカサウオ属マツカサウオ Monocentris japonica 。「松毬魚」は硬い鱗に覆われて鎧のように見えること(「ヨロイウオ」の異名もある)、

また、下顎の前方に一対の米粒のような発光腺があり、この中に発光バクテリアが共生していて、本邦の海産魚類では珍しい発光する魚としても知られる。さらに、鰭を動かすときにパタパタと音を立てることから「パタパタウオ」と呼ぶ地方もある。]

(六八)海馬【りう[やぶちゃん注:ママ。]のこまと呼ぶ】

[やぶちゃん注:条鰭綱トゲウオ目ヨウジウオ亜目ヨウジウオ科タツノオトシゴ亜科タツノオトシゴ属 Hippocampus のタツノオトシゴ類。多くの種がいる。]

 其他やぎにて作れる箸、指輪、車渠をもって作れる球、靑螺盃及球、石決明の珠、榮螺の盃、等をも購收せり。

[やぶちゃん注:「車渠」: 斧足綱異歯亜綱マルスダレガイ目ザルガイ上科ザルガイ科シャコガイ亜科 Tridacnidae のシャコガイ類の殻。

「石決明の珠」腹足綱原始腹足目ミミガイ科アワビ属 Haliotis のアワビ類が殻の内側の真珠層に混入した異物を核に天然真珠が出来る。

 一字下げの「江島採集購收品」リストはここで終わっている。なお、このリスト内には、手書き挿絵(手書きキャプション附き)がある。そこには、右端に、

   *

四月十六日

 七里濱所𫉬

   *

とあって、二つの図があり、右側のそれには、右手に「截面」、その下方に「裏」とあり、上部図外に判読不能の「■」(二字?)、同じく下部図外に判読不能の「■」(二字?)と、左手には「表」とあって、その図の左に表から描いたものらしい図がある。その右上図外には「コブ」と読めそうな文字があり、左上図外にも判読不能の「■」(二字?)がある。これは、採集地から、この後に書かれている「化石二つ及鐵砂を得たり。江島にて介細工中往々この沙もて黑色をなせり。七里濱邊に有り、取り來て水に晒し用ゆとぞ」とある化石の一つの絵と推定される。何の化石かは、私には判らない。識者の御教授を乞うものである。]

 化石二つ及鐵砂を得たり。江島にて介細工中往々この沙もて黑色をなせり。七里濱邊に有り、取り來て水に晒し用ゆとぞ。

[やぶちゃん注:七里ガ浜の稲村ヶ崎寄りでは、古くから砂鉄が採れる。]

 「ホツスガヒ」、同大にして價大に異なるものあり。之を問ふに、鹽氣を去れると去らざるとなり、鹽氣を去らざれば其綿脫落すといふ。その之を去るの法之を淨水に浸すこと數分時にして日光に晒し、幾回もかくするなりと。

 (附)餘が購し介種の中「ヒゲダイモク」郞君子(こまのつめ)等二十品ばかり、倉卒の際旅舍へおき忘れて出たり。今に至り悵憾詮方なし。[やぶちゃん注:この最後の附記はポイント落ち。]

右明治十八年五月二日記畢。           

[やぶちゃん注:「ヒゲダイモク」日蓮宗の「南無妙法蓮華經」の髭文字を貝細工で作ったものらしいが、私は見たことがないので、何を用いて造るのか、不詳。識者の御教授を乞う。髭は鯨ひげを使ったか? 因みに、御題目の内の「法」には、唯一、髭はない。「法」=「カルマ」は棘があってはいけないからである。

「郞君子(こまのつめ)」腹足綱前鰓亜綱古腹足目サザエ(リュウテンサザエ)科リュウテン亜科 Lunella 属スガイ(酢貝)Lunella correensis の硬質の厚い蓋のこと。「相思子」とも言う。これは、酢を入れた皿の中に入れると、くるくると回り出し、古く子どもの遊びとされた。御存知ない方は、『毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 相思螺・郎君子・酢貝(スガイ)・ガンガラ / スガイ及びその蓋』の私の注を参照されたい。]

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