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2024/04/28

譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(3)

○風眼(ふうがん)には、

 「岩ろくせう」[やぶちゃん注:底本では、「ろくせう」の右に編者補正注で『(綠靑)』とある。]一味、「あはびのわた」に、すりまぜ、用(もちゆ)べし。

[やぶちゃん注:「風眼」今の若い連中は知らない病名だろうが、所謂、性病の淋病の淋菌が眼に入ることによって発生する急性の眼疾患の俗称で、盲目になるケースもあった。正式には、「淋菌性結膜炎」(gonorrheal conjunctivitis)という。感染経路が判らなかったことから、古くは、風や空気が原因で、発症するとされたことから、非常に古くから、この名で呼ばれた。淋菌によって起こる結膜炎であるが、強い眼瞼及び結膜の腫張と、大量の膿様眼脂(目ヤニ)を伴い、病変は、しばしば角膜にも達し、角膜穿孔を起こし、或いは白い癒着白斑を残す。耳前リンパ節は疼痛を伴い、腫張する。潜伏期はごく短く、数時間から三日程度で突然、発症する。私は医学書で感染した幼児の古い写真を見たが、両目の瞼が卵大に腫れていた。この病気は、高校時代に保健体育の授業で高齢の男の先生が詳しく説明して下さったのを、昨日のことのように記憶している。「淋菌がどうして眼に入る?」ってか? 銭湯さ! 近代以前の銭湯(江戸では「湯屋(ゆうや)」と呼んだ)湯の温度が低く、しかも、湯の入れ替えも杜撰で、非常に汚れていた。「曲亭馬琴「兎園小説」(正編)  あやしき少女の事」で注したが、湯舟は、熱を逃がさないようにするため、上部に最低限の採光と換気のための、ごく小さな窓があるだけで、湯船は殆んど真っ暗で、一緒に入っている人間の顏も判らないほどであったから、湯が汚いことは入っている客には、まるで判らなかったのだ。而して、四角い湯舟の場合、温度が下がり、しかも細菌類が集まり易いのは、内側の角の部分だった。大人ならば、そこに顔をつけることはまずないが、子どもは、違う。そして淋菌が眼に入ったのだ(授業では先生は湯舟の図を描いて細かく説明されていた)。

「岩綠靑」歴史的仮名遣は「いはろくしやう」が正しい。「岩緑青」(いわろくしょう)とは、日本画の顔料の一つで、緑青色の粒状。色が濃く、画料に用いられるが、耐光性に弱い。孔雀石(くじゃくせき:水酸化銅・炭酸銅からなる鉱物。緑色で光沢があり、針状又は塊状で産出する)から製する。「青丹」(あおに)とも呼ばれる(小学館「日本国語大辞典」に拠った)。

「あはびのわた」「鮑(あはび)の腸(わた)」。脱線だが、これ、「猫が食うと耳が落ちる」というのを御存知か? ご存知ない方は、私の「耳囊 卷之五 同眼のとぢ付きて明ざるを開く奇法の事」(そちらは本条との関連はない。偶然である)の私の注を見られたい。]

 

○眼へ、鼠の小便、入(いり)たる時、

 猫の小便をさして、吉(よし)。若(もし)、猫の小便、なき時は、生姜(しやうが)のしぼり汁を、さして、よし。

 

○雪中を行(ゆき)て、めの、くらみたるには、

 其まゝ、火鉢の炭火へ、酒、一雫(ひとしづく)落して、其煙(けぶり)にて、めを、いぶすときは、卽時に、あきらかに成(なる)也。

 

○眼へ「ものもらひ」と云(いふ)「でき物」せし時、

 靑山椒の實(み)五粒、粘(ねば)にて、「金ぱく」にても、丹(に)にても、まぶし、丸藥(ぐわんやく)の如くに拵(こしら)へ、當人の齒に、あてぬやうに、のましむべし。翌朝、治する也。靑山椒なき時は、「ほしざんしやう」の皮の内に有(ある)、黑き實にても、よし。

 

○眼病療治。

 信州諏訪の住竹内新八郞と云(いふ)者、功者也。

 又、上總國わだ村、藥王寺と云ふ所に療治するもの有。右江戸より十六

里宇、船にて一日路也。目蔡代扶持方共、盲竺人百十錢ほど也。

[やぶちゃん注:「上總國わだ村」底本では「わ」の右に編者補正注で『(ぶ)』とあるが、これは恐らく「へた」の誤りと思われる。千葉県夷隅郡大多喜町(おおたきまち)部田へた:グーグル・マップ・データ。以下同じ)であろう。但し、現在の同地区には「藥王寺」はない。しかし、ここから約九キロメートル北北西の千葉県長生(ちょうせい)郡長南町(ちょうなんまち)山内(やまうち)に薬王寺がある。津村は、しばしば地名や、その位置を誤るから、この程度の誤差は屁でもない。そもそも「上總の其處一里」(「『東京朝日新聞』大正3(1914)年7月15日(水曜日)掲載 夏目漱石作「心」「先生の遺書」第八十三回」)のお国柄だしな。]

 

○「めまひ」するには、

 「口なし」の黑燒一味、酒にて用(もちい)て、よし。

[やぶちゃん注:「口なし」リンドウ目アカネ科サンタンカ(山丹花)亜科クチナシ連クチナシ属クチナシGardenia jasminoides 。]

 

○目のまじなひ。

 夜中、錢(ぜに)一文をもち出(いで)て、四辻に至(いたり)て、其錢にて、めを、よく、ぬぐひて、「おく山のひのきさはらぬさしをひきあたひにはかまはぬうるべしかふベし」と唱(となへ)て、後(のち)、其錢を、うしろ手に、おとして、後(うしろ)を見ずに、かへるべし。奇妙に、なほる也。

[やぶちゃん注:異界との通底器である「辻」を用いた古い咒(まじな)いである。咒言(じゅごん)の歌は、「おく山の/ひのき/さはらぬ/さしをひき/あたひには/かまはぬ/うるべし/かふベし」のリズムだろう。]

 

○鼻血の藥。

 花蘂(ずい)石一味、粉にして用(もちゆ)べし。

[やぶちゃん注:「花蘂(ずい)石」「ずい」のルビは珍しい底本のものである。これは「Ophicalcitum」という変成した蛇紋岩大理石らしい。「香港理工大學」公式サイト内のここ(英語)で、鬱血治療薬とあるのと一致する。]

 

○又、一方。

 くちなし一味、黑燒にして、鼻の内へ吹入(ふきいれ)て、よし。

 

○又、一方。

 くみたての水を、紙に、ひたし、「つむり」の眞中を、ひやして、吉(よし)。

[やぶちゃん注:昔、小学生の頃、鼻血を出した同級生に先生が同じことをしたのを、今、思い出したッツ!!!

 

○鼻血を、とむる、まじなひ。

 其人に向(むかひ)て、右の人指(ひとさしゆび)にて、「難波津に咲(さく)や此花冬ごもり」と云(いふ)上の句斗(ばかり)を書(かき)て、「冬ごもり」の「り」の字を「理」と書(かく)べし。卽坐に、血、とまる也。

[やぶちゃん注:「難波津に咲や此花冬ごもり」これは、近代以降、「競技かるた」会に於いて、一番、最初に読まれる序歌で(無論、「百人一首」にはない。歌人佐佐木信綱が選定したとされる)、作者は王仁(わに)。

 難波津に咲くやこの花冬ごもり

      今を春べと咲くやこの花

王仁は「古事記」「日本書紀」に登場する、応神天皇の時代に百済から来た渡来人とされる人物である。詳しくは、当該ウィキを見られたい。]

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