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2024/04/06

譚 海 卷之十三 ひちりき舌の事 琵琶の事 箏の事 十二調子の事 調藥懸皷の事 花は香木をきらふ事 丁字風呂の事 薫物の事 伽羅の事 釣香爐の事 せんかうの事 白芨の事 銀道具・象牙等をみがく事(1)

[やぶちゃん注:最後は前の「白芨」のからみで独立されてあるが、その後に独立項で「銀道具・象牙等をみがく事」に相当するものがあるので、(1)とした。]

○「ひちりき」の舌(ぜつ)をば、薄く、竹をけづりて後(のち)、「燒(やき)ばさみ」といふものにて、はさみて、ひらたくする也。舌、口授(くじゆ)といふ事を得ざれば、拵損(こしらへそん)ずる也。竹は攝州鵜殿(うどの)の蘆を用ゆ。又、さなくても、古き垣などにせし「よし」を、えり取(とり)て、こしらふるも、よし。

[やぶちゃん注:「ひちりき」篳篥。

「舌」篳篥の盧(廬)舌(ろぜつ)。リード。

「燒ばさみ」金属製の平らなペンチのようなものか。

「攝州鵜殿」大阪府高槻市鵜殿(グーグル・マップ・データ航空写真)。現在も葭原(よしはら)が広がり、ウィキの「鵜殿のヨシ原」によれば、『この鵜殿に生えるヨシ』(単子葉植物綱イネ目イネ科ダンチク亜科ヨシ属ヨシ Phragmites australis )『は、高さが』三『メートルほどの大形のヨシで太く弾力性があり、古くから雅楽の篳篥(ひちりき)の蘆舌(西洋管楽器のリード部分に相当)として使用されており』、昭和二〇(一九四五)年『頃までは、毎年』百『本ずつ宮内庁に献上されていた。今でも宮内庁楽部で使われている蘆舌は、すべて鵜殿産のヨシで作られている。顕微鏡で観察すると』、『鵜殿のヨシは他の物より繊維の密度が高いため音色が独特である』とあり、『鵜殿一帯は、奈良時代には都の牧場として使用されていた。 鵜殿の地名については、紀元前』八八『年に起きた』第八代孝元天皇の皇子で、第十代崇神天皇に対する反乱を起こした「建波邇安王(たけはにやすおう)の乱」『以後、敗軍の将兵が追い詰められ』、『淀川に落ち』、『鵜のように浮いたので、一帯を「鵜河(川)」と呼ぶようになったと』「古事記」に『書かれており、 平安時代に鵜河の辺に造られた宿を「鵜殿」と呼び、それが土地の名になったと言われている』。承平五(九三五)年には、『紀貫之が土佐から帰京するおり、「うどの(鵜殿)といふところにとまる」という記述がある。江戸時代には「宇土野」という文字での記述もみられる』。『鵜殿のヨシは良質なことで知られ、特に雅楽で用いられる楽器・篳篥の吹き口として珍重され、貢物として献上されていると』、「摂津名所圖會」にも『記されている。 その他、江戸時代には、ヨシで編んだ葦簾が盛んに生産され』、昭和三〇(一九五〇年~一九六〇年代までは『葦簾、簾、寒天簾、建築資材などの材料として使用されていた』とある。]

 

○樂(がく)の琵琶は、柱(ぢ)、四つ、有(あり)。

 「平家」をうたふに用(もちゆ)る物は、柱、五つ、有。

 柱にて、見わくる也。

 又、樂の「びは」は、撥(ばち)を、皮の下に、はさむ樣に製しあり。

 「平家」は、撥、はさみがたし。

 「てんぢ」も、樂に用るは、直(すぐ)也。「平家」に用る物は、「てんぢ」、そりて付(つく)るもの也。

[やぶちゃん注:「てんぢ」「てんじゆ(てんじゅ)」のこと。一般には「轉手」「點手」「傳手」と書き、琵琶・三味線などで、棹の頭部に横から差し込んである、弦を巻きつける棒を指す。これを手で回して弦の張りを調節する。「糸巻き」「天柱」(てんじ)「轉軫」(てんじん)とも言い、最後のそれは「てんぢ」と読みそうになる(実際には音「シン」)。参照した「デジタル大辞泉」に部位解説の画像がある。]

 

○樂の箏(さう)は、平(たひら)にして、疊の上に居(をき)たる所、そらず、直(ちよく)也。

 「筑紫箏(つくしごと)」は、腹を、そらせて作りたる故、疊に居たる所、そりて、見ゆる也。腹、たひらかなれば、聲(こゑ)、大(おほき)く、ひゞくなり。そらせたるゆゑに、聲、ひきく響く事也。

[やぶちゃん注:「箏」弦楽器の一つ。長さ一・八〇メートル前後の中空の胴の上に、絹製の弦を十三本張り、柱(じ)で音階を調節し、右手の指にはめた爪(つめ)で演奏する。奈良時代に中国から伝来した。雅楽用の楽箏(がくそう)のほか、箏曲用の「筑紫箏」(つくしごと)や「俗箏」(ぞくそう)等がある。なお、私の連れ合いは、六十年に及ぶ琴の名手である。五歲から始め、一時は本邦初の「邦楽研究所」第一期生ともなった(修了直前に中退した)。]

 

○笛・「ひちりき」ともに、古器は、穴、自然(おのづ)と大きく、大・小、有(あり)。年久敷(ひさしく)、人の指のあたりたる所、すれて、しかり。然れども吹(ふく)時に至りては、穴の大小にかゝはらず、調子、たがふ事、なし。是又、古器の妙也。

 

○樂は「黃鐘(わうしよう)」を本(もと)とす。十二調子、皆、黃鐘より出(いづ)るゆゑ、黃鐘、定らずしては、律を製する事、成(なり)かたし。

 聖德太子、攝州天王寺の鐘を、黃鐘に造り置(おき)給ひし故、此鐘にあてて、「律」を製するゆゑ、本朝の樂は、萬(よろづ)、古調に違(たが)ふ事、なし。尤(もつとも)珍器也。

[やぶちゃん注:「黃鐘」日本音楽の用語。「十二律」の一つ。基音である壱越(いちこつ)の音(洋楽のd、ニ音)から八律目の音で、aの音(イ音)とほぼ同じ高さの音。雅楽で、この音を主音とする調子を「黄鐘調」と呼び、「六調子」の一つで「律」に属するとされる。なお、「こうしょう」と読まれることもあるが、これは「十二律」の本来の中国名で、別音であるので、歴史的仮名遣「わうしよう」が正しい。]

 

○俗人の家にて、調樂するには、太鼓、殊に目立(めだつ)物也。床(ゆか)の橫壁に、「風ぬき」とて、窓のやうに明(あけ)たる所、有(あり)、是に釻(かん)[やぶちゃん注:太鼓の取っ手・持ち手になる金属製の輪っか部分を指す語。]を打(うち)、太鼓を懸て、打(うつ)時は、事々しからず、又、風流成(なる)もの也。

 

○花は香薰(かうくん)の物を嫌ふ也。若花(わかはな)有(ある)所にて、伽羅(きやら)などを焚(たく)時は、花、ことごとく、しほるゝ也。心すべし。

 夫(それ)故に中央卓には、香爐を上に居(をき)て、下に「花がめ」を置(おく)事也。香氣、花と、きそはざるやうに取合(とりあひ)たる、古人の用意、思ふベし。

 

○丁子風呂(ちやうじぶろ)に、丁子十粒ばかり入置(いれおけ)けば、終日、香氣、絕(たゆ)る事、なし。多く入(いれ)れば、にえこぼれて、又、香氣の增(ます)事、なし。風呂の湯、少(すくな)くなれば、折々、心得て水をさすべし。夏座敷に缺べからざるもの也。

[やぶちゃん注:「丁子」風呂江戸時代、丁子(丁字とも書く。クローブ(Clove)のこと。ここはバラ亜綱フトモモ目フトモモ科フトモモ属チョウジノキ Syzygium aromaticum のこと。一般に知られた加工材のそれは、本種の蕾を乾燥したものを指し、漢方薬で芳香健胃剤として用いる生薬の一つを指し、肉料理等にもよく使用される香料)の香をつけた湯をたてたもの。丁字湯。]

 

○薰物(たきもの)、調合して、水邊(みづべ)へ埋め置(おか)かざれば、香氣を增(ます)事、なし。埋置(うめおく)日數、春・夏は一七日(ひとなぬか)、秋冬は二七日(ふたなぬか)也。

 

○薰物を調合するを、「かさぬる」と云(いふ)也。薰物の方(はう)、何にても、書付(かきつけ)ある藥味(やくみ)の順の通りかさねざれば、拵へて後(のち)、香氣、薄し。是、調合の一つの祕事也。

 方(はう)・組(くみ)を書(かき)たる書、等閑(いたづら)に見るべからず。

 

○にほひ袋(ぶくろ)の年へたるを、取出(とりいだ)して、薰物に製すべし。尋常のものに勝(まさり)たる香氣、有(あり)。

 

○伽羅(きやら)の木の澤山(たくさん)有(ある)は、伯耆樣の家に越(こゆ)る事、なし。大成(おほきな)る重箱の形のごとく切(きり)たる他羅、いくらも、あり。

「外(ほか)の家は、皆、銀の香合(かうがふ)にして、木を合せて拵(こしらへ)たる香合成(なり)。」

と、いへり。

[やぶちゃん注:「伽羅」香木の一種。沈香(じんこう)・白檀(びゃくだん)などとともに珍重される。伽羅はサンスクリット語で「黒」の意の漢音写。一説には香気の優れたものは黒色であるということから、この名がつけられたともいう。但し、特定種を原木するものではなく、また沈香の内の優良なものを「伽羅」と呼ぶこともある。詳しくはウィキの「沈香」を見られるのがよかろう。]

 

○釣香爐(つりかうろ)といふ物、有(あり)。床(とこ)の内に、釣花生(つりはないけ)の如く、天井より、紐を懸(かけ)おろして、夫(それ)に釣(つり)たるもの也。夏の座敷には、殊によろし。

 

○線香を製するには、野に生ずる「すまひとり草(ぐさ)」といふ物を取(とり)て、穗を切(きり)さり、日にさらし、たくはへ置(おき)、それを「しん」にして、花火・「せんかう」のごとく、香(かう)をときて、塗付(ぬりつく)る也。線香へぬり付(つく)るには、白芨(びやくきふ)と云(いふ)物の汁、よし。又、「ひめのり」を、ときて用(もちゆ)るも、よし。

[やぶちゃん注:「すまひとり草」不詳。というか、この名(相撲取り草)で一番に私が挙げるのは、シソ目オオバコ科オオバコ属オオバコ Plantago asiatica var. densiuscula なのだが、いくら調べても、線香の材料にされたとする記録がネット上では見当たらない。辞書で「すもうぐさ」「しまひぐさ」を引くと、スミレの異名、オヒシバ(雄日芝)の異名、メヒシバ(雌日芝)の異名、オグルマ(小車)」の異名と出るのだが、果してこの中にあるのか? それとも、別の種なのか? 万事休す。識者の御教授を乞うものである。

「白芨」単子葉植物綱キジカクシ目ラン科セッコク亜科エビネ連 Coelogyninae 亜連シラン属シラン Bletilla striata の偽球茎。漢方薬として止血・痛み止め・慢性胃炎にも用いられる。

「ひめのり」「姬糊」で、飯をやわらかく煮て、水を加え、挽き潰して作った糊。洗い張り・障子張り等のときに用いる、あれである。]

 

○白芨を、皮を、けづり去(さり)、竹の筒に、水を入(いれ)、ひたし置(おく)時は、一夜をへて、白笈の汁、「かづら」の如くねばりて出(いづ)る也。その筒へ、直)ただち)に此「すまひとり草」を入)(いれ)、引出(ひきいだ)して、盆中に香を合(あは)し置(おき)たるに、まろばし、付(つくる)事也。かはかして、又、筒に入(いれ)、香(かをり)を付(つく)る時は、ふとく、よく、つかるゝ也。少しづつ、こしらへて用(もちゆ)べし。多く一度に拵へたくはふれば、香(かをり)、かはき落(おち)て、快く用(もちい)がたし。

 

○白芨の汁、全體、彫物師の「かな物」を付(つく)る物也。小刀の柄抔(など)に付(つく)べきものをほり上(あげ)て、白芨汁をもちて、その所へ、ぬり付(つく)る。其上を、「はりがね」にて卷(まき)て、「ふい子(ご)」に入(いれ)て燒(やく)ときは、ふたたび、はなれ落(おつ)る事、なし。

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