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2024/04/22

譚 海 卷之十四 囚獄罪人月代そり髮ゆふ日の事 醬油の事 公事訴訟人死去の時の事 公事出入に付人を預る次第の事 御裏書拜見文言書法の事 夫妻離緣狀延引の時御定めの事 公儀より大名へ御預け者の時の事 武士途中慮外者にあひたりし時の事 綿打弓價の事 沙糖價の事 ほふれい綿價の事 犬鑓の事 戰場にて首討取時の事 穢多團左衞門支配の事 金座の事

○江戶牢獄の罪人、七月十三日・十二月十三日、一年兩度、月代(さかやき)を剃(そら)せらるゝ。

 江戶中、髮結商賣のもの、役にて牢屋へ行(ゆき)てする事也。髮結、六十人づつ罷出(まかりいで)、一人にて、二人づつ、月代、そる事也。

 

○醬油一樽は八升入(いり)也。樽代を引(ひき)て、正味、七升五合あり。みそ一樽は目形(めかた)、十九貫目也。是も、樽代を、壹貫目、引(ひき)て、正味、十八貫目ある事也。

[やぶちゃん注:「十九貫目」七十一・二五〇キログラム。

「十九貫目」六十七・五〇〇キログラム。]

 

 ○公事訴訟等にて、町所へ預置(あづかりおか)れたる者、又は、借金の出入等、不相濟内に死去せし人は、公儀へ死去のだん、御屆申上(おとどけまうしあげ)、御檢使を請(うけ)て後、葬送する事也。御屆け不申上御檢使不ㇾ濟亡者は、寺にて葬禮を行(おこなは)ざる法也。

 

○請出人(うけだしにん)、事有(あり)て、其人を家主へ預(あづけ)る時、「預る」とは、いはぬ事也。「預る」とは、公儀の御詞(おことば)にて、私(わたくし)には成(なし)がたき事也。

「其元(そこもと)樣、御店内、誰(たれの)事、何々の出入(でいり)に付(つき)、御屈け申候。爲ㇾ念書付可ㇾ被ㇾ下(ねんを、なし、かきつけ、くださるべし)。」

と可ㇾ申事也。

 家主、答(こたへ)に、

「まづ、當人を召(めし)よせ、得(とく)と承合(うけあひ)候上(うへ)、書付、出(いだ)し可ㇾ申。明日(みやうにち)御越可ㇾ有ㇾ之。」

と申さば、明日、又、參るべし。

 其内(そのうち)、家主、取扱、内濟(ないさい)にせば、よし。さもなくば、書付を とり、名主方へ參(まゐり)、

「御支配の家主、誰(たれの)店(たな)、何がし、出入御座候に付、家主より、書付を申請(まふしうけ)候間、御屆申候。」

と、いふべし。名主、

「庭帳(にはちやう)に、しるし、御念入候義(おんねんいりにさふらふぎ)。」

と答ふ。

 其後、公儀へ御願申べし。

 家主、書付、文言(ぶんげん)。

「拙者店誰事 其元何々の事 御座候に付 御屆なされ、致承知候」

と書(かくベし。

 此外、吟味・詮議・仕置などいう[やぶちゃん注:ママ。]詞も、公儀御詞にて、下(しも)の人の、私にいふべき事ならずと、知るべし。

[やぶちゃん注:「庭帳」ここは「人別帳」の意。]

 

 ○御裏書(おんうらがき)拜見、家主、文言。

「私店(わたくしだな)何某(なにがし) 何(なんの)出入(でいり)に付(つき) 來(きた)る何日の御裏書、慥(たしかに)奉拜見候 仍而如ㇾ件(よつてくだんのごとし)

               家主 何某在判

  年號月日

   誰 殿

 扨、御裏書をみせて持歸(もちかへ)り、當日、御奉行所へ差上(さしあぐ)るなり。貸金、出入(でいり)ならば、御裏書を、濟切(すみきる)まで、大切に所持する事也。

 

○「夫婦離別の上、早速、離緣狀を指越(さしこさ)ば、よし。萬一、延引に及(およんで)で、其間に、夫(をつと)、既に後妻を入(いれ)たらば、夫、「まけ」也。下々(しもじもは、兩人の妻なき故(ゆゑ)也。又、離緣狀延引の内は、妻方(つまがた)の扶持・小遣を贈るべし。おくらざれば、又、夫の「まけ」也。又、持參金あらば、離緣狀、取(とる)の後(のち)、さいそくの上、返さずば、公訴に及ぶべし。かへさずば、不ㇾ叶(かなはざる)事。)

と、人の語りぬ。

 

○公儀より大名へ御預け者ある時、請取(うけとり)に出(いづ)る役人、申上(まうしあぐ)べきは、

「途中にて、狼籍、御座候はば、如何(いかに)取(とり)はからひ可ㇾ申哉(や)。」

と伺ふべし。

 其時は、公儀より、

「其方共(そのはうども)、勝手次第。」

と仰渡(おほせわた)され、有(ある)べし。

「是は、若(もし)、狼藉者、召人(めしうど)、奪取(うばひとら)んなどする事ある時は、打捨(うちすて)たり共(とも)、くるしからざるよし、古禮也。」

と、人のかたりぬ。

 

○武家、途中にて、慮外者に、あひ、止事(やむこと)を得ず切殺(きりころ)しぬるときは、とゞめをさゝぬ、古禮也。

 又、「かたきうち」は、とゞめをさす事、古禮也。死人の「かしら」のかたに居(をり)て、とゞめを、さすべし。是、古禮也、とぞ。

 

○綿打弓(わたうちゆみ)料(れう)、銀十三匁五分。槌(つち)は、貳匁六分。弦は、五匁五、六分より、壹匁七八分まで也。

[やぶちゃん注:「綿打弓」繰(く)り綿(わた)を柔らかくするために打ち叩く道具。形状が、中国の弾弓(はじきゆみ)に似ていることによる名称。「わたゆみ」「わたうち」とも呼ぶ。個人ブログ「着物のよろず 針箱」の「草綿一覧―木綿の生地ができるまで 2」の二枚の画像(東京国立博物館資料画像)の下方の図を参照されたい。]

 

○雪大白砂糖(ゆきだいしろさとう)、銀百廿五六匁。出島は百七匁。黑砂糖は、十五樽ほど、目形(めかた)二百六十貫目にて廿五匁程、是は寬政三年春の相場也。

[やぶちゃん注:「二百六十貫目」九百七十五キログラム。

「寬政三年」一七九一年。]

 

○「ほうれい綿」は、壹駄、貳十七貫、九百匁也。十駄、貳百七十九貫目也。寬政三年より、關東、豐作に付(つき)、九十七兩の相場に、三年己前迄は、拾駄にて貳百五十兩ぐらひ、せし事也。

[やぶちゃん注:「ほうれい綿」「豐麗綿」か。上質の美しい綿。

「十七貫」六十三・七五〇キログラム。

「貳百七十九貫目」約一・〇四六トン。]

 

○「犬鑓(いぬやり)」とは、馬上の鑓・「塀こし」・「垣越」・「溝越」などの鑓を、誠の「手がら」の如く高言するを、似せもの、おほきゆゑ、「犬鑓」といふ也。敵と對して、あはせたる鑓の外は、手柄にならぬ事、とぞ。

[やぶちゃん注:「犬鑓」「犬」は卑しめて言う語で、 敵が不意に出て、槍で突くこと。また、柵・垣根、又は、溝を越えようとする相手を突くこと、槍を投げつけることなどを言うこともあり、いずれも不名誉な行為とされた。

「似せもの」「贋物」(にせもの)。]

 

○戰場にて、首、あまた打取(うちとる)時は、邪魔に成(なる)故、耳・はな斗(ばかり)を切(きり)て證據(しようこ)に、とゞむる事也。尤(もつとも)證人なくては、あしし。耳は、鬢(びん)の毛を付(つけ)て、そぎ、鼻は、髭を付て、そぐ也。何れも鎧の引合(ひきあひ)に入(はい)る事也。

[やぶちゃん注:「鎧の引合」鎧の胴の右側の合わせ目を言う。]

 

○穢多(ゑた)、團左衞門支配は、四十餘、有(あり)。其内に藍屋壺立といふ物あり。是は無地の紺染(こんぞめ)ばかりを業(なりあひ)とする染物やの事也。

 又、世間に、非人にもあらずして、絹布類を着し、袖乞(そでこひ)をなして、渡世する一種、有(あり)。此もの、「こうむれ」と號す。文字には「乞胸」と書(かく)事也。此類も穢多の支配なり。

「國初よりの『御定書(おさだめがき)』には、穢多の支配のもの、種々の家業をなすもの有(あり)、占なひを業とするものも、穢多の支配也。右の御書付の内に乘せられたり。」

と、いへり。

[やぶちゃん注:「團左衞門」その他は、先行する「譚海 卷之二 江戶非人・穢多公事に及たる事」の私の注を参照されたい。

 

○金座小判・小粒等、製するもの、ごくいん打候もの、共に後藤庄三郞長屋に住居し、或は、他所にも住居する有(あり)。是は「座人」と稱して、小判を製するかたに、國初より仰付られあるものにて、庄三郞支配にて、庄三郞家來には、あらず。庄三郞家來は、家老初め、別にあり。

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