譚 海 卷之十三 諸木實をむすぶを催す方事 蓮花からたちばなの事 菖蒲蛇を呼ぶ事 藪茗花の事 附朝鮮朝顏毒草たる事
○「蜜柑・柚の類、年をへて、實を結ばざるには、其實を、外(ほか)より取り來りて、ゆひそへて置(おく)時は、來年より、實を生ずる。」
と、いへり。俗諺に、是を、
「養子をする。」
と。いへり。
○蓮華は不淨を嫌ふ也。池へ小便などする事あれば、やがて、枯(かれ)うする也。「からたち花」も同前也。
[やぶちゃん注:「からたち花」ムクロジ目ミカン科カラタチ属カラタチ Citrus trifoliata 。当該ウィキによれば、『和名カラタチの名は唐橘(からたちばな)が詰まったものである。別名でもカラタチバナともよばれる』。『別名では、キコク(枳殻)ともよばれる。中国植物名(漢名)は、枸橘(くきつ)という』。『中国中部の原産』であるが、『日本へは古くに渡来し、奈良時代末期に成立したと』される「万葉集」『にも名が見られる』。『平安時代には果実が薬用にされた』。『現代では、生け垣などに植栽されているのが見られる』。『柑橘類の中でも最も耐寒性が強く、やせた土地にも耐えて生育でき』、『東北地方でも生育する』とある。]
○「菖蒲(しやうぶ)は、『へび』の好(すく)もの。」
と、いへり。澤邊(あたり)、此草ある所に行(ゆき)ては、必(かならず)、蛇蝎(だかつ)の用心、すべし。
○「藪茗荷」といふもの有(あり)。詩に作れる「杜衡」といふものなる、よし。
「朝鮮朝顏」と云ふものあり。毒、あり、人を狂惑さするもの也。此はなの種(たね)、惧(おそれ)て、一粒も、のむべからず。
[やぶちゃん注: 「藪茗荷」単子葉植物綱ツユクサ目ツユクサ科ヤブミョウガ属ヤブミョウガ Pollia japonica 。
『詩に作れる「杜衡」といふものなる、よし』誤り。「杜衡」は絶滅危惧II類(VU)となっている美しいギフチョウ(鱗翅(チョウ)目アゲハチョウ上科アゲハチョウ科ウスバアゲハ亜科ギフチョウ族ギフチョウ属ギフチョウ Luehdorfia japonica )の幼虫の食草としても知られるコショウ目ウマノスズクサ科カンアオイ属カンアオイ Asarum nipponicum var. nipponicum の同属の中国産のカンアオイ属の誤認漢名。そもそもカンアオイは日本固有種である。
「朝鮮朝顏」ナス目ナス科チョウセンアサガオ属チョウセンアサガオ Datura metel 。園芸用としては「ダツラ」「ダチュラ」の名で広く知られ、他に「マンダラゲ」(曼陀羅華)、「キチガイナスビ」(気違い茄子)、「ロコ草」などの異名もあり、英名の一つ「Angel's trumpet」もよく知られる。当該ウィキによれば、『原産地はアメリカ合衆国テキサス州からコロンビアにかけてとされ』たが、『熱帯アジア原産という説もある』。『日本へは、江戸時代』(天和四・貞享元(一六八四)年)『に薬用植物としてもたらされ、現在は本州以南で帰化・野生化したものが見られる』とある。『全草、特に種子に有毒なアルカロイド成分を含み、誤食すると瞳孔が開き、強い興奮、精神錯乱から、量が多いと』、『死に至る』。『成分はヒヨスチアミン (Hyoscyamine)、スコポラミン (Scopolamine) などのトロパンアルカロイドなどである。植物体の汁が目に入っても危険である』とある。ああっ! 私は若い頃から、ずっと、この花に魅せられている。梅崎春生「幻化」だ! ブログ版では、『梅崎春生「幻化」附やぶちゃん注 (7)』・『梅崎春生「幻化」附やぶちゃん注 (9)』・『梅崎春生「幻化」附やぶちゃん注 (10)~「白い花」了』を、サイト版一括PDF版「幻化 附やぶちゃん注 (PDF縦書決定版)」を見られたい。]
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